縁（渋谷）

人間ドックを受けた。

予想通り、いろんなところが病んでいた。

γ－ＧＴＰ、５０以下が正常なのに、１００越えていたり。

尿酸値、７以下が正常なのに、８を越えていたり。

こりゃ、美味いもんと酒、禁止されるだろな、と思いきや、

担当医のアドバイスが秀逸だった。

「我慢しなくていいから、但し、高品質なものを、ゆっくり味わって、少しだけにせよ」という。

ハイボールをがぶ飲みするんじゃなく、シングルモルトとかのいいやつを、

ストレートで、ちびちび舐めるように飲み、

ホルモンをガンガン食べるんじゃなく、

ハイレベルな肉を、味わって少量にするといいという。

その時、水をとにかくたくさん飲めと。

ほう。

それなら出来そうだ(笑)

そんな今日この頃。

少しでも健康的な食事を、と考えた初日。

いい魚を、少量で、と考えたら、ここしかない。

ＮＨＫ近く、渋谷のはずれに、

宇田川にフタして暗渠化した遊歩道がある。

その通り沿い、深い紺色の外壁の、シックにな民家。

縁、「えん」と読む。

外に、今日のメニューがひっそり掲げられている。

焼き魚か、刺身盛り合わせか。

日替わりで、１品押し。

選択肢がないのだが、しかし、こうすることで、ムダをなくし、

安くて美味しい魚が食べられるのだ。

通り沿いにあるドアを開けると狭いながらも温かな空間。

靴を脱ぐと、一階は3つのテーブル席と厨房、二階にも座敷があって、

全体的にこじんまりとしたつくり。

感じのいいご夫婦の家に、遊びに来た感じ。

この日は、「ブリ、真だこ、メジマグロ」の刺身３品盛り。

煮物の小鉢と漬け物、

優しい昆布出汁のお吸い物。

そして、おひつでご飯が出てくるのがいい。

メジマグロは本マグロの幼魚。

女将さんは、メジマグロのことを「今日はチュウボウよ～」と言っていたのだが、

本マグロは出世魚で、細かく言うと、20キロくらいまでを「メジ、ゴンタ」、

20～30キロくらいまでを「中坊」と言うらしい。

「メジ」を漢字でかくと「若魚」。

メジマグロは、うっすらピンク色でやや白く濁った感じ。

食感は滑らかで酸味と甘味を感じる。

噛むと、本マグロにはない優しい脂が口に広がり、

そこにご飯を放り込むと、コメに脂が馴染んで、泣きそうに美味い。

ここのご飯が、いつも美味い。

最高の水加減と蒸らし具合で炊かれていて、

１杯目、少量、空気をふくませてふわっと盛られる。

残りは、おひつで出てくるので、

自分なりのよそい方で、少しずつ楽しめる。

ちなみに「よそう」という言葉、漢字だと、「装う」。

だから、上品に丁寧に盛りつけてこそ、ご飯は「よそう」なのだ、「よそる」じゃないのだ、

と、うちのデブな母ちゃんがよく言ってた(笑)

こんなに美味しい刺身を千円ちょいで食べられる定食は、

僕は他に知らない。

もう少し食べたい、っていうぐらいの量を、じっくり味わって楽しむ

という意味では、恐らく最強のランチ。

ラーメンや「港屋」の肉そばのような脂っこいジャンクな昼飯を食べたあとの、

あの罪悪感が全くないのがいいね。

ちなみに、夜は、2,500円･5,000円･7,000円の三種類のおまかせのコースだ。

今度、夜来てみたい。

デート、女子会、一人飯にお薦め。

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