黒猫物語 過去からの来襲 4
2016-04-01 21:30:24
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







ホームに続く階段で

瑞月は
ホームに並ぶ人波に
まず、
たじろいだ。



ダメだ。
階段途中で
揺らいだりしたら
人の波にぶち当たる。



俺は
とっさに
瑞月の肩を抱いた。
迷惑気に
左右に分かれる人の流れが
俺の肩にぶつかる。



イテッ!

「豪君、
   こっち!」

武藤さんが振り返り
呼んでいる。




わずか三駅
されど三駅

無事に連れて行けるんだろうか。
ふらついた瑞月を抱きかかえ
俺は階段を上がった。



「……ごめん。
  僕、
  驚いて……。」
 


瑞月を抱えて上りきると
武藤さんは
階段脇に
俺たちを引き込んだ。



瑞月を覗きこんで
明るく笑う。


「気にしない
  気にしない

  驚くだろうから
  練習してるんだ。

  何でもなければ
  練習なんかしないよ。

  だいじょうぶかい?」



この人強い。
マサさんがよく言う。
心が強い人はよく笑うんだ。
それも
人が明るくなりたいときに。




瑞月は
驚いただけのようだ。


そっと呼吸を探るが
発作は起こしていない。




「じゃ
   乗るか

   瑞月、
   駅三つだけだからね」




人間って面白い。
瑞月の美貌も
混雑時の電車では
基本、
威力を失うんだな。




乗り込むのに必死だ。
もちろん俺たちも。




武藤さんが切り込み
その後に
瑞月を抱えた俺が続く。


中程で
武藤さんは振り返り
押し込まれる瑞月を胸に抱き取り
つり革に踏みとどまった。




あ、
それ……俺がやりたかった。


武藤さんを見上げて
瑞月が笑いかけてる。

あーあ
俺が先導すればよかった。


俺の複雑な顔を見て
武藤さんが
くすくす笑い出す。




「さあ
   豪君に譲るよ。

  今日のエスコート役は君だからね 」



武藤さんが
瑞月に
そっと耳打ちして
瑞月が俺を振り返る。


ちょうど
ガタッ
と揺れがきて
瑞月は俺の腕に戻ってきた。



抱き止めて
改めて
感心する。

同じスケートをしてるけど
瑞月の骨格も
筋肉の付き方も
俺とは全然違ってる。




「たける
   ごめんね。

  痛かった?」

申し訳なさそうに
瑞月が俺を見上げる。



お前は羽みたいに軽い。
しかも柔らかだ。




瑞月も押され
俺も背中を押され
俺は瑞月を抱き締める形になる。




「ご、ごめん」

俺が謝る番だ。
瑞月のしなやかな体が
俺の胸から腹まで
ぴったりと隙間なく密着している。



瑞月の呼吸が
胸から伝わる。

や、やばい。

動悸が速くなる。




瑞月は
華奢で
柔らかくて
いい匂いがする。




「仕方ないよ。
   すごく混んでるんだもの。

  ……僕こそ ごめんね。
 たける
 居心地悪いでしょ?」



「まさか!
   瑞月、
  痛くない?

  だいじょうぶ?」



「平気だよ
   たける
   気にしすぎだ。」



たった三駅は
夢のように過ぎた。



武藤さんと道を切り開き
押し出されるように
俺たちは
下車した。



瑞月は
俺の気持ちが分かってる。


俺は隠さないからだ。
伝えなきゃ始まらない。




好きな子に
好きと伝える。

それはしたいんだ。
俺は正々堂々守りたいんだから。




俺は
気持ちが欲しい。
そして、
お前を守るために全力を尽くす。
それが俺の気持ちだ。



瑞月は
受け入れてくれている。
そして、
こうして
俺に身を預ける。




あーあ
俺は信用がある。
悲しいくらいあるんだ。




瑞月に嫌われたら
耐えられない。
瑞月の許しがなければ
指一本触れられない。



風呂場で裸で抱きつかれても
俺にはわかっちまう。

瑞月に
その気はない
ってね。

そして、
その気がない瑞月に
俺は手を出さない。





賑わう表通りから
ちょっと裏に入ると
小綺麗なビルが
綺麗に磨かれたガラスに囲まれて建っている。




咲さんに聞かされて驚いた。
うちの学校、
あのおじいちゃんの援助でできていた。



なんか納得したよ。
たくさんある通信制の高校は
たいてい
どこも
似通っている。



ここは変わってるんだ。
俺は一発で気に入った。




どこが?

まあ
一番は
日曜日に紹介できるよ。




今日は
ここの先生たちだな
 




エレベーターが開く。


明るいアイボリーの廊下が
優しく光る。



教室の廊下側の窓から陽光
天井の端に
壁を優しく伝い下りるLED電球の光





向かいは事務室
隣は職員室
さあ
ボスのおばさんに挨拶だ。




職員室にいるかな
おばさんは。



「たける!
   珍しいじゃない。
   水曜日よ。

  どうしたの?」




嬉しそうな
温かい
優しい声が

後ろから
響く。



やっぱり
職員室にはいない人だ。

約束があるから
戻ったんだな。




「こんにちは」

ふっくら
どっしり
パンツスーツに身を包んだ
ここのドン。



「今日は付き添いです。

  先生
  俺の親友
  橘 瑞月君です。」




俺の恩師は
この人だ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。