第五期羽生選手に思う

羽生選手に様々な思いをいただいています。
その生き様に
その演技にいただいて
自分の思いを綴っていきます。

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テーマ:
この小説は純粋な創作です。
実在の人物・物語に関係はありません。




「長が………
 お戻りになられました!」



息を切らしながら、
庭先に
駆け込んできた物見の者が
報告する。


「参りましょう。」

一の人、
深水が
涼やかに声を張る。



深水は、
居室に端座する美しき姫を
思っていた。


 私は
 長のお帰りを
 待ちます


 長は
 もう
 間違われますまい


 ………………。


天晴れな
その潔さに
己も習うところがあった。


 如何なることであれ
 長が選び取るものこそが
 この鷲羽の道を定める。


 
それは、
昨日の天意に
明らかであった。



天は
長を選ばれた。
月様を下賜する者として。



であれば、
そこに
勾玉の真意を酌むも
長なのだ。



 そこに
 長は
 その都度問われるのだな



天意を
その身に体現する。
しかも、
それは推し量ることしか許されない。


その意に叶うか否かは、
ただ
下賜された者に現れ示される。


 
 すごい恋よね
 スリリングだと思わない?



応える気分になれない大年増の軽口に
少々気を削がれながらも
深水は
姫の覚悟に習う心を奮い立たせた。



長が
何をお考えか
それを受け止める覚悟が
何よりも必要だった。




朝議の間から
鷲羽の中枢を成す臣らが
わらわらと
席を立つ。




深水は、
門を前に
朝議さながら列をなす臣の先頭に
静かに膝をついた。



カッ

カッ

カッ

カッ



頭を垂れ
控える前に
ちょうど
下の大門をくぐった姿が見えた。


 気に溢れておられる………。


その驚きが
微かに脳裏を掠めたのも束の間
長の駆る翔の強き脚は
その名に恥じぬ天を駆けるかの勢いで
迫ってくる。


ガッ………。
門から駆け入った翔の蹄が
長の意気高き様を
皆に伝えるかに響き渡った。


ぶるるっ

翔は、
首を振り立て
荒い息を吐く。


館で召し使う小者が駆け寄るのを待たず
長は翔から下り立ち、
自ら
馬上に横座りに静まる者に
手を伸べた。



猛々しき黒馬は
ぴたり
その動きを止め、
その背にある貴き者に、
揺れ一つ与えぬ態にそこに直る。



見事な毛並みの黒馬
その背に
咲き零れ
照り映える花があった。


白き花弁は
その内から満たされて
命に息づく。


長に応え
たおやかに
その手を差し伸べる様に
臣らは
ただ呆然と吸い寄せられた。


各々
自らが
いつ立ち上がったかもわからぬ態で
ばらばらと立ち上がる中、
長は
花をその腕にふわりと
抱き下ろす。



 ………月様よの

 月様じゃな

 
なんと綺羅綺羅しい。
臣らは、
覚えず胸に呟く。


美しい月を
承知してはいた。
長の傍らに無邪気に小首を傾げる姿に
秘かに嘆声をあげていた。


だが、


まるで
薄皮をはいだように
今の月は輝く。


 肌が………なんと艶めいていることか。

 何という眸か
 長を見る眼差しのきらきらしいことよ。




 
新月は
その衣を脱ぎ
鮮やかに照り映える。



 このお方は
 いったい
 どなたなのだ


その美に
皆は
知る。


 変わられた………。



宇気比は
確かに
何かを告げたに違いない。

月は
その天意を示して
かくも光り輝く。


その一事は明らかだった。




神渡は
月を傍らに
徐に向き直る。


日の長の強き眼差しに
臣らは、
はっと我に返り、
改めて畏まった。





神渡は
鷲羽を支える男たちを
ゆっくりと見回した。




「皆、
    よく待っていてくれた。」


まず、
神渡は謝した。

月とお山に向かったは、
何の当てがあるでない賭けだった。

ただ
そこに
一つの答えがあるやも知れぬ。
そう信じて
駆けた。




それを
信じてまっていてくれた。
神渡は、
長として
その心が有り難かった。



「月を見よ

神渡はそう命じた。


えっ?
羞じらう朔夜に構わず
神渡は
その背に身を添わせ
その肩を抱く。





「月は、
 お山から奪われた巫じゃ。」


その言葉が
ゆっくりと皆に伝わる。



 巫………?

 お山は入らずのお山では………?

    奪われたとは………………?


そんな戸惑いを読み、
口を尖らせ眉をひそめる多田が
進み出た。

「お山は
 人の入るを許されぬ場。
 いったい………。」



神渡は
静かに多田を
見返す。


「月を見よ、
 と
 言うた。

 分からぬか?」


あくまで静かな声
朔夜に添うて
端然と立つ神渡に、
何の迷いもなかった。




 巫………。
 まさに
 まさにそうであった


 龍を呼ばれたは
 このお方よ

 さすれば
 雨も
 龍の下されしものか


皆が
長の放つものに頷く様を見すまして、
深水が
静かにそこに膝を折ってみせた。



一人
また一人と
臣らは
それに続く。




進み出た悲しさに
同輩の所作に気づかぬ多田が
だみ声をあげる。



「いえ、
 お美しくなられた
 と
 驚いておりますが………その………。」


長の気迫に
圧されながらも多田は
食い下がる構えを見せていた。




「まさに巫。
 でなくて、
 どうして天から
 雨を呼べましょうや。」

深水の
張りのある声が
多田のだみ声を弾き出した。


憤然と振り向いた多田は、
膝を折り、
天から下された巫に表敬の意を示す一同にたじろぐ。


蟇のすが目が
パチパチとまたたき、
己も膝をつくふんぎりもつかず、
多田はそこに立ち尽くした。




神渡は
多田を越えて皆の拝礼に
向き合うた。



その眸は
深く澄み渡り、
その手は
朔夜の肩を抱いて小揺るぎもしない。




一同は、
多田には一顧だに与えず
一言も聞き漏らすまいと
長の顔を見守った。



神渡は、
高らかに宣した。


「月は
 勾玉に
 この鷲羽を天と結ぶ者じゃ。

    一同、
   巫を敬い
   その詔に従え。」


高く高く青き天空の下、
その声は、
あくまで明るい。



臣下一同、
頭を
地に擦り付け
巫に拝礼した。


こそこそと
多田も
その中に入る。

ついに庭には
朔夜を巫と認め額づく男たちで
満たされた。



ぴいーーーーーひょろろーーーーーーー



空に羽ばたく鳥の声が
静まった
皆の上を渡っていく。




〝そなたは巫じゃ
    よいな〟
神渡に
言われたままに
その口を閉ざしながらも
朔夜は驚きに目を見開いたままだ。



 多田も
 仲間に入ったわよ
 やったわね、
 さすが長。


 ………月様は
 驚いておられよう。
 大事なかろうか


 ちゃんと
 巫だって認められなきゃ
    長の側にはいられないでしょ。
    頑張らなきゃ。

 



神渡は語る。


「十年前、
 この鷲羽に発した禍々しき戦の波を
 皆も覚えていよう。」


齢五十を越える者、
まだ三十を越えたばかりの者、
その年齢にばらつきはあったが、
一同、
その戦を潜り抜けた者ばかりだった。




多田は
びくん
背を震わせ、
他の者共はその背に
静かにその時を辿った。



災いは
まるで生きたもののように
里を焼き付くしていった。


 なぜ
 このような………。


そう
誰もが思ううちに
争いは広がった。


そして………………お山は鷲羽を見放したかのように
閉ざされたのだ。




「月は
 あの折りに
 お山から奪われた。

    そして、
    お山はお怒りになり、
 この地は
 禍々しきものに
 覆い尽くされようとした。

    だが、
 我の勾玉が
 それを止めた。」


神渡は、
己の胸の勾玉を
引き出す。


その翠の光は
額づく男たちの目の先にかがよう。



それは
その夜を照らした灯りだった。

 無益なり

長の一語は
鷲羽を一つにした。





戦場に突き立てられた剣と
勾玉の閃光の成した業。

さらに、
お山に燃え盛る火と
その斜面を流れ落ちる水。




お山の怒りと
長による鎮めは
鷲羽の衆、
皆が知るものだった。
その物語が
朔夜の舞いに
お山に立ち昇りし光に
お山から飛び来りし龍に繋がっていく。


 月様が………お山のお方………。


さやさや

さやさや

気づけば秋の涼風が
庭を吹き抜けていく。

梢を揺らす風のさやぎが
臣らの耳に囁きかけ
その心を澄ましていった。



「そして、
 月は、
 己が何者であるかも知らず
 この十年を過ごしたのだ。

 我も
 また
 勾玉の教えが
 掴めずにおった。


 だが、
 宇気比に
    天はお告げになった。


 光とは、
 月のことよ。


 月は、
 まさに月の巫。
 我は、
 日の長じゃ。

 日と月と揃うて
 天はある。」


長は
ここまでを言い切ると
その余韻の中、
静かに命じた。



「面を上げ、
 もう一度、
 月を見よ!」


一同、
一斉に身を起こし、
朔夜を見守った。



リイイイーーーーーン………。

リイイイーーーーーン………。


澄んだ鈴の音が
どこからともなく清浄な気を震わせて
降り来る。


ん?
顔を上げた朔夜が
ふうっ
目を閉じた。





 この鈴………お主か?

まさに神を降ろして
千の光を纏わんとする朔夜に
目も心も奪われながら
深水は尋ねた。


 まさか!
 お母様じゃない?

 ちょっと
 これ
 綺麗とかいうレベルじゃないんだけど



タン!

履き物を脱ぎ捨てた
白き小さき足が
地を踏む。


地に気は目覚め
トン!
応える。


その気に
袖は舞い上がり
澄み切った眸は空を仰ぐ。


サッ
袖が風を薙いで回る。


ざっ
風はその身を抱いて軽やかに回す。


木々のさやぎを
頬をなぶる風を楽の音とし
踏みしめる地の気を纏って
朔夜は舞う。


まさに
煌々と天に輝く月の化身が
月光に濡れる地に降り立ちてあった




リイイイーーーーーン………………。


かそけき鈴の音が
朔夜を
静かに舞い納めさせ、
朔夜は天にその白い腕を差し伸べて
目を閉じた。




もう
その顔を上げて抗弁しようなど
誰であろうと
できるものではなかった。



寂として静まる庭。


まだ
その身を器として残し
ゆらり
揺らめくか細き肢体を
長は
そっと抱き上げた。




逞しき長に身を預ける月の巫。
まさに一幅の絵たる姿を
臣らは
言葉もなく見詰める。


目を閉じて
長の胸に収まる朔夜は
夢現をさまようかに儚かった。



「良き舞いであった。」

長が囁く。

長の言葉は
その耳に届くのか。
巫は花のように笑みを溢す。


その花を固く抱き寄せ
その頬に頬を寄せた長の顔は
しばし
臣らにはみえなくなった。



長の語りは
顔を隠したままに続いた。


「黒きものは、
 月に我を殺めさせようとしおった。


 月は
 それを拒み
 声を失うた。

 続いて
 襲い来た黒き者を逃れ
 月は言葉を失うた。


 そして、
 月は我に添うた。
 添うて舞った。

 我は月を得た。」

その声は
僅かにくぐもり、
男の真情を映して熱かった。


抱きし朔夜を
守らんと
その力は滾り迸る。



その熱に息を呑み、
見詰める臣は
そこに静まる。



長の背筋が
ぐっと伸びた。
たださえ長身のその姿に
ただならぬ生気が満ちる。


日の長と知られるその男は、
口を開いた。

「十年前、
    この地に災いを呼びし黒きものこそ、
 世を闇とすると伝えられしものぞ。

    日は
    月をいただき、
 その黒きもの共を
 祓うのじゃ。

 それを成すために
 我と月とがある。

 それが
 此度の宇気比じゃ。」


鷲羽の臣は
どよめいた。


 黒きもの………。
 禍々しきもの………。


そのようなものと戦う………。
十年前の戦は
その記憶に新しい。


天意はあまりに重く、
不安が
皆を揺らす。



 

そして、
その声は凛と響いた。


「ですから、
 勾玉の願いを思うは、
 鷲羽だけの吉凶にとどまらぬ話と思うのです。」


臣らは、
またも目を剥いた。


人は花咲く。
その心意気に薄紅に咲き誇る花、
興津の姫が静かにその庭に進み出ていた。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。



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