この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。
☆黒
暑い!
ニャー
あつっ‥‥。
足の裏に
土の感覚がある。
その土がやけに熱い。
背中の毛がチリチリ焼かれる。
草いきれ?
ああ
柵の向こうの草むらから匂うんだ。
柵に囲まれたここは、
長が剣振り回してたとこね。
影一つない。
うっかり見上げた太陽は
やけに大きく感じる。
実体つきか。
探さなきゃならないから
かえって不便なんだけどどうする?
おじいちゃん。
お夕食が済むと
おじいちゃんは
にこにこしながら
言ったの。
〝さあ
マサさんに紹介しなきゃならない
瑞月ちゃんのお守りは
もう一人おるよ。〟
そして
一生懸命
来て来てって手招きする。
お膝に乗って上げたら
私の猫目石を撫で撫でしながら
言ったわ。
〝黒ちゃんじゃよ。
お使い猫じゃ。〟
マサさんが
身を乗り出した。
〝おっ
いよいよ魔法じゃねぇですか。
猫のお使いですかい?〟
瑞月が嬉しそうに口を挟んだ。
〝ぼくたち、
助けてもらったんだよ。
ここからね
パーティーやったホテルまで
ピュ-ン!って飛んできたんだって。〟
マサさんが海斗を見て
海斗が頷いた。
うふふ
って
おじいちゃんは笑った。
〝色々
見たもんなぁ。
大事なとこなんじゃろ?〟
私が
何を見てきたか
猫目石が知ってるのかしら。
おじいちゃんは、
静かに猫目石を撫でて
マサさんは、
黙っておじいちゃんを見ていた。
おじいちゃんたちって、
食えない奴らなのよね。
海斗、
あなたに一票よ。
足が熱くて敵わない。
とにかく
林かな。
☆三枝家
孫娘は
やはり特別だな。
可愛いものだ。
ドアを開けるなり
飛んでくるあたりは
小さな頃と変わらない。
「お祖父様……。」
見上げる頭は
私より頭半分低い。
160ほどだったな。
やはり
鷲羽総帥は背が高い。
この子は彼の胸ほどにしか
届くまい。
「ちょっと
邪魔するよ。」
笑いかけると
つんとする。
獅子頭と渾名される私が笑いかけると
この子だけは
にこにこしてくれたものだが。
やはり
ご機嫌斜めだな。
もう昔のようには
いかなくなった。
不首尾だったことは
もう嫁から聞いているはずだ。
「ちょっと
背が高すぎかもしれないな。
年もだけどね。」
振ってみる。
「鷲羽様のこと?」
切り揃えた額髪の下の眸は
伏せられていて
読めない。
「まあ、
掛けて話そう。
いいかい?」
時間はある。
綾子は私に頼んだのだ。
話す責任は私にあるだろう。
「はい」
素直に答える。
まだ抑えているな。
私が座るのを見済まして
綾子は
ソファーに
ちょこんと膝を揃えて座る。
「断られたよ。
鷲羽総帥は
結婚はしないそうだ。」
本題から切り込んだ。
揃えた足に力がこもる。
綾子は
身を乗り出した。
「お祖父様、
綾子は
お見合いなんて望んでません。
背がお高いなんて
パーティーでもう知ってます!」
物怖じしない。
小気味いいくらいだな。
「どうしたい?」
思わず楽しんでしまう。
「私を好きになっていただくの。」
綾子は
キッパリ言ってのける。
自分が断られるなど考えてもいない。
「どうやって?」
いかんな。
私は楽しんでいる。
「私を鷲羽のお宅で
働かせてください。
絶対頑張ってお目に止まってみせます。」
政財界の噂雀ども、
掌中の珠というには
綾子は
ちょっとした爆弾だ。
外には
出したことがないが………。
「住み込みは大変だよ?」
「えっと
大学あるから1週間!
1週間でだめなら諦めます!!」
「誰にも〝三枝〟の娘だとは
扱ってもらえないよ。」
「もちろん!
だって、
私を好きになってもらうんです!!」
政務に役得は付き物だ。
東北支援の一件がある。
鷲羽はどう出るだろう。
まあ交渉してみよう。
画像はお借りしました。