黒猫物語 正月 1
2016-01-11 10:31:55
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




☆武藤君到着
瓦を載せた白壁が続く。
脇に潜り戸
左右に張り出した庇
立派な門構えが見えてくる。

すげえ。
でかーい。
タクシーから降りて門の前に立つ。

一応スーツ。
一張羅は1着しかないから一張羅だ。
昨日の誘拐騒ぎでオシャカになった。
スーツなら失礼ではないだろう。

中からはこちらが見えるらしい。
インターフォンで名乗り来意を告げると
潜り戸が開いた。


なんか道の先が見えない。
どこまでも林が広がっていく。

…………すごいな。
奥州藤原三代の館みたいだ。
大門の跡は一里こなたにあり
だっけ。

林が開けてお屋敷が見える。
あちこちに
点在する建物は
御家人いや使用人の住まいなんだろうか。

あのすっとぼけたじいさんが
ここの主とは
驚いた。

だいじょうぶか?

いやいや
まずは挨拶だ。

コートを脱いで
(ごめんください)
和装の女性が既に
待っていた。



☆黒猫の姐さん間も無く到着
やれやれキャリーケースか。
手荷物扱いね。

ま、座席に座れない。
だから、仕方ない。

佐賀さんが
ランニングで広げてきた
ご近所付き合い。
老夫婦のお宅に私はお邪魔していたの。
品のある方々よ。

突然のお迎えだけど
佐賀さんが電話で説明したみたい。
スムーズに
私は渡されて旅に出たの。

佐賀さんじゃない人で
私はちょっと残念。
やっぱり
ご一緒するなら
素敵な殿方が望ましいもの。

若造じゃないの。
まあかわいいけれど
私には食いたりないわ。

仔猫と佐賀さんしか見てなかったから
贅沢になってるのね。

人は
中身が大事。
そこは変わらないわよ。
あの二人、
ハラハラするくらい純粋で
ドキドキするほど熱いのよ。
うちの二人は
素敵な魂をもっている。

ああ 早く二人に会いたいわ。
じゃお休みなさい。

☆武藤君姐さんに出会う

じいさんは可愛い。
喋りも楽しい。

肝心な情報は分からないが
この可愛いじいさんが重要人物なんだから
佐賀さんは大した人物ってことなんじゃないか?

とりあえず

佐賀さんが
口うるさくて
何でもできて
おっかない人だ

ということは分かった。


佐賀さんの武勇伝で盛り上がっていたら
外から声がかかった。

〈お入り お入り〉
じいさんが機嫌よく返す。
さっそく襖が開き、
大きなキャリーケースが
運び込まれた。

〈おお おお 着いたんじゃな。
どんなお嬢さんじゃろ。〉

ケースが開かれ
真っ黒な猫が
青い目をキラキラさせながら
現れた。

俺は
ちょっと
猫は苦手だ。

怖くないか?

〈おいで おいで〉
じいさんが呼んでいる。

チラッとじいさんを見て
ぐるーっと
回り込むようにゆっくり歩いて
おもむろに
じいさんの手に頭を擦り付けてみせる。

わーい!
と抱こうとした
じいさんの手をするりと抜けて
ふーんというように
室内を回っている。

お、俺のこと
目に入らないのかな。


☆佐賀と瑞月

御到着になりました!
ダーッシュ!

あら
小さなご老人が
転がるように走っていく。
彼が着てると着物はかわいい。
ひらひらしてる。

御到着だけ?
誰と言わなくても
皆にわかる誰かが御到着なのね。

さあ
私も待ってたわよ。
早く顔を見なくっちゃ。

大きな玄関に
二人がいた。

元気そう。
仔猫は私を見てぱっと顔を輝かせてる。
よし!
すぐに佐賀さんを見上げるのね。
変わらず大好きモードだわ。
よし!

佐賀さん……。
あらあらまあまあ。
目で仔猫を脱がせてない?
いちいち切なそう。

あなた
大概の人には負けないんだから
落ち着きなさい。
第一
仔猫は貴方に夢中じゃないの。

うーん
女性が昼間からする話題じゃないけれど、
仔猫ちゃん
もしかして抱いたら分かる深淵が
あったのかしら。

そこは後で考えましょ。


やだ
佐賀さんに見とれてたら
仔猫とおじいちゃん
賑やかな二人ね。

仲良しみたい。
いい感じね。

『二人とも静かにしろ。』

あら
いい子たちじゃない。
おじいちゃんも子どものうちなのね。

『まず挨拶だ。
瑞月!』
仔猫もきちん!
おじいちゃんもきちん!

『よろしくお願いいたします。』
「よろしくお願いいたします。」
〈よろしくの。〉

『二人とも
勝手な行動はしない。
調子に乗って
かくれんぼしようなんて
料簡は起こすなよ。
許さんぞ。

俺の目の届くところにいろ。
いいな。』

「はい」
〈面倒じゃのう。〉

『今すぐ帰るぞ!
瑞月が巻き込まれる』

えええええっ
やだーっ!!

やだやだ帰りたくない
やだやだ遊ぶんだ

わいわいぎゃいぎゃい
二人で騒ぐとうるさいものね。
ふーん
佐賀さん
これ悪くないかもよ。

切なさが消えたわ。
恋人してる場合じゃないしね。

黙れ!

しーん

『誤魔化すな じじい
返事は?』

〈…………ハイ〉

佐賀さんは
瑞月を抱き寄せる。

『約束しただろ。
お仕置きするぞ。
したくてたまらないんだからな』

瑞月ちゃん
真っ赤になったわね。
お仕置きは
もう経験済みかな。

そうそう
しちゃっていいから
余裕もちなさい。

楽しくお仕置きしながらじゃなくちゃ
ちょっと
やってられないんじゃないの?

なかなか手強そうな二人組。
あなたの瑞月も
お友達が必要よ。
反抗することもね。

大人の余裕と
大人のお仕置きで
頑張りなさい。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



人気ブログランキングへ