この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






ぱぁっ

お日様の光。


温かくって
起きなさい!
って
僕を撫でる手を感じる。


起きるよ
だって
海斗の顔を見たいから。


ちょっと眠いの
だから
ベッドから見る


海斗……。

お日様に向かう顔はね
光に輝いてる。
少し目を細めて
軽く上げた左腕に頬を寄せてる。


胸から脇腹に
お日様が刻んだ影がね
すごく綺麗。


海斗のお尻が
シルエットになってる。
ドキドキする。


強い
海斗は強いから
こんなに綺麗なんだ。




目が覚める。
僕、
もう眠くないよ。



僕、
呼ぶ。
よみがえって呼ぶ。


「海斗……おはよう。」


海斗が振り返るよ。
ああ、
全身がシルエットになる。
なんて綺麗な輪郭を描くんだろう。



僕、
腕を伸ばす。

〝来て

  来て、海斗。〟

顔が見たいの。
早く見たいの。



「おはよう、瑞月。」

ああ、海斗が来た。
笑顔だ。
やっぱり笑顔だ。


僕、
ちゃんと起きた。
起きてキスをもらった。



「出掛けるぞ」

海斗が囁いた。


「もう?
  御飯は?」

花のおうちに
行くんだよね。


「向こうで食べよう。
  バイクで行く。
  スーツを着るんだ。
  もう一人で着られるな?」


バイク?
うん!
バイク大好きだよ。




洋館は
まだ誰も動き出していなかった。
咲さんは……気づいたかもしれない。
だが、
一階ホールは静けさに
俺を許してくれていた。


瑞月を乗せて、
俺は、
隠れ家には向かわなかった。


急な下り坂を
排気音を吹き上げて
一気に駆け下りた。


倒される車体に合わせて
背中のお前も
しなやかに重心を移動する。


急カーブを抜ける瞬間の
近々と迫る路面と
吹き抜ける風に
お前は歓声を上げる。




海に向かう道を
ひたすらに走る。


ほどなく
空気は変わった。
潮風は
海を教えてくれる。


そう
そのカーブを抜けたら……
海だ!


凪いでいる
どこまでも煌めく波頭が
水平線へと小さくなっていく。



霞む水平線の上に
ぽっかりと白い雲が浮かぶ。
瑞月の歓声はギヤがトップに入った。



「海だ!
  海だよ!!」



瑞月の細い腕が
俺の腰にある。
その体の温もりを背に
俺たちは風に乗る。


海沿いを行こう
隠れ家は
もうすぐそこにある。






海に来たんだよ。

えっと
海斗が電話してる。
内緒じゃないよね。
こうしていていいんだよね。


海岸に下りる石段の脇に
花が咲いてた。
青いの
黄色いの
可愛いんだよ。



砂地を歩く。
潮騒が僕を海に連れていく。
ほら
おいでって。


足元まで波が来るよ。
ブーツをね
海がつつくんだ。
広い広い海のはしっこに
僕はいるよ。


ちょっと風は冷たいかも。
そしてお日様は温かい。




誰もいないよ


こんな海かな。

誰もいない海で
お母さんが踊ってた。
お父さんは見とれてた。




お母さんは
空に上ったかな
空から見てるの?


海にいるかな
海から見てるの?


青い海
青い空
お母さんは青が好きだったもの。



お母さん!
空に手を振る
お母さん!
海に手を振る


ちょっと内緒
大好きな咲お母さんに内緒で
僕は
お母さんを呼ぶ。



お母さん、
僕、
ウェディングドレス着ちゃった
ベールもつけたんだよ


僕、
海斗が好き
大好きなんだ


お母さんが
お父さんを好きになったみたいに
大好きだよ。




ちょっと入ってみる。


ブーツは
もう半分隠れちゃった。
背中に波の音が聞こえるよ。


僕の背中から海が海に戻ってくる。
ああ、
きっとこんな感じだよね。
お母さんが
海に入っていったとき。


なんだか
海に抱かれてるみたい。
海が優しくて
波が誘ってくれて
このまま浮かんでみたくなる。


海から
優しさが
やってくる。


青い空に
ぽつん

白が見えた。


わー
海鳥だ。
真っ白だー

真っ青に真っ白


おいで
おいで

僕は呼ぶ。
そっと両手を差し伸べて
僕は心を込める。



バサバサっ
突然羽ばたきの音が耳を打つ。
びっくり。


僕を掠めて
真っ白な海鳥が海辺に降りてきた。
ギャッ
ギャッ
〝戻んなさい〟?かな?
なんか叱られた?



バシャバシャ
僕も海辺に戻る。
海鳥がまた舞い上がる。

舞い上がって
大きく円を描いて飛ぶ。

僕は手を振る。



円の向こうから
また別の海鳥が飛んでくる。


すごーい
〝こんにちは

  こんにちは

  仲良しなの?〟

僕は
また心を込める。







誰にも今日を知られたくない。
明日を知る誰からも離れて
二人きりでいたい。


そう思った。


波打ち際に遊ぶ白い影。
高く上げた手に
海鳥が呼応する。


瑞月の周りを二羽の海鳥が
滑空するように
高く円を描く。


「瑞月!」

俺は呼ぶ。
お前は振り返る。



友達に大きく手を振り、
さよならをすると、
お前は駆けてくる。


駆けてくる俺の天使。


海鳥も
砂地に咲く花も
みんな
お前の友達なんだな。


そして…………。


白く
熱い体が
ピョン

俺に飛びついた。


抱きついたまま、
お前は
また
空へと手を振る。


二羽の海鳥が
挨拶するように最後の滑空をし、
海へと空を戻っていく。


「僕の恋人だよ
  って
  紹介したよ。」


そうだ。

そして、
俺は恋人だ。
お前は俺の魂だ。



画像はお借りしました。



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