黒猫物語 カナダ滞在7
2016-01-27 07:30:38
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









大根を切ってみる。
切れた。
で、皮から剥く?



流しに向かい、
そろそろと包丁を押し進める後ろでは
甘い囁きが続く。




「海斗……」

瑞月は呼ぶ。



湿った音が
深く交わされては
繰り返すキスを伝えてくれる。




おっと
深く刃が入っちゃった。


神様
俺は聞きたくて聞いてるんじゃありません。
そこんとこ
よろしく。




瑞月は
揺れると佐賀さんを求める。
リアルに
自分に触れる実体を。
触れるまで戻ってはこない……か。




海斗……

甘い
甘い声
身を捩り佐賀さんを求める姿が
浮かぶ。





よし剥けた!




瑞月の喘ぎが
ゆっくりと
静かになっていく。




ザーッ

水音に驚いた。
佐賀さんが手を洗っている。




『待たせたな。
   代わろう。』



振り返る。
ソファに瑞月は横たわっている。
微かに震えながら倒れ伏す
仕留められた小動物。




『食べさせることが
   第一だ。

   起こすなよ。
   今は何もしてやれない。』




(……何したんですか?)


『キスだが?』



それ…………できるのか?
いや
瑞月、
服着てるし…………。
キスだけ?
マジで?



『瑞月は感じやすい子だ。
   堕とすのは
   難しくないが……
   武藤は平気か?』



(は、はい!)


『お前が料理できるなら
   抱いたまま
   瑞月が落ち着くのを待てるが、
   食事は待ってくれない。

   毎日だぞ。
   頑張れよ。』



(毎日これですか?!)



『お前は
   話を聞くのも
   受け止めるのも
   大したものだ。

   あの子を取材するんだろ?

    母親を思い出せるようになったのは
    咲さんたちのお陰だ。

    俺に話せたのも
    つい数日前だ。

    瑞月は
    どんどん思い出す。
    武藤、
    お前が自然に引き出してくれるだろう。


    話せば揺れる。
    俺が必要だ。


    思い出一つに
    涙とキスだ。

    諦めろ。
    お前に対する
    あの子と俺の信頼の代償だ。』



(信頼……ホントに?!)



『でなければ
   あの子は話したりしない。

   俺もだ。

   お前の前で
   あの子を抱けない。

   お前にはわかると思うから
   こうしている。

   時間がない。
   食器を出して洗ってくれ。』




喋っていても
佐賀さんの手は止まらない。




俺もあわてて作業にかかった。
なんか
あっという間にできていく。




お姫様は
お腹すいたよ
と仰有っていた。

甘い夢から覚めれば
頬をふくらませて
まだぁ?
という可愛い瑞月が戻ってくる。





急がなければ!!



でも
佐賀さん
聞きにくいけど興味がある。

あのキスは
瑞月を黙らせるためだけ?
あなたの思いはどうしてるんだろう?




ご飯って大切だ。
でも
コントロールできることとできないことがある。



瑞月の甘い声で求められて我慢する。
これ、
頭おかしくなりませんか?



画像はお借りしました。
ありがとうございます。