黒猫物語番外編 不在の1週間<初秋>9
2015-12-31 10:44:45
テーマ:クロネコ物語

この物語は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




犯人は本当に警官だった。
全然知らなかったよ。
部署が違うし
この夏に来たばかりの奴だったんだ。

手際よく
拘置所から
俺の家までやってこれたはずだ。

パトロールの時間もわかる。
公園は格好の舞台だったわけだ。
安心しきっていたんだろう。

余罪を追求している。
恥ずかしいと思ってる。
警官にも色々ありすぎる。

サガの大活躍と
過剰防衛を疑われる犯人のダメージは
丸腰で女性と未成年を抱えていたのだから
問題なかった。

が、
疑問は残る。

サガは何者なんだろう。
10代のころ、
ボクシングをやっていた……。
20代でトレーナーを始めている。

数年分の隙間はある。

一段落つき
俺とサガは署内の休憩室で
自販機のコーヒーを飲んでいた。

俺は思いきって話し始めた。

《サガさん
最初はあなたをギャングかと思いました。
堅気の匂いがしなかったんです。
喧嘩馴れしてると感じました。

でも、
公園であの子を守って戦う動きを見て
ギャングではないと思った。
訓練されてらっしゃる。


銃の心得があることもわかった。
かなりの腕前だ。

あなたはどこで訓練を受けたんですか?》

サガは
静かに聞いていた。
否定も肯定も表情からは読めない。

『今はあの子の専属トレーナーです。
私の経歴で
あの子に傷が付くのは避けたいと考えています。

どこで受けたにしろ
戦闘訓練などというものは
良い評判にはなりません。』

俺は次の質問を飲み込んだ。
聞いてはいけない。
そういうことなんだ。

代わりに
これだけはと思うことを聞いた。

《あの子はあなたの何ですか?》

サガは暫く考えていた。
考えて
考えて
答えてくれた。

『わかりません。
ただ、
特別に思っています。』

俺は言った。

《あの子にとっても
あなたは特別だ。

気になっているんです。
あの子はナイフを避けなかった。
むしろ
待っていたと思います。

誰も身内がいないようだ。
それでも
愛されて育った匂いがします。

何か不幸な事件があったのでしょう。
家族は突然失った。
そう感じています。

あの子は大丈夫なのか
こんな短い付き合いでも
気になっているんです。

死にたがる子どもは
大抵トラウマをもっています。

あなただけを頼りにしているのを見ると、
怖くさえなる。

あなたはお若い。
あの子はあなたにすがっている。

あなたは親になれますか?
むしろ
恋人になりたいと感じていると
俺は思うんですが。》

サガは静かに応えた。

『ありがとうございます。
出会えたことに
感謝します。

今は
あの子を手放すことはできません。
それだけが
わかっていることです。

俺は…………あの子の望む何にでもなれる。
なりたいと思っています。』

俺は……ありったけの勇気をかき集めた。

《もし
辛くなったら……
思い出してください。

その年で
あの子をひとりで抱えきるのは
本当に難しいことです。

時折
訪ねていらっしゃいませんか。
妹が喜びます。

あいつは
誰の母親にでもなれる奴です。
親の肩代わりが
できますよ。

俺もあの子に会いたい。
初めて見たときから
天使だと思っています。》

サガは応えなかった。
ただ立ち上がり
深々と頭を下げた。


それから
俺たちは
妹の家に向かった。



天使には
大切な練習が待っていた。

ショーのために
二泊
俺の家に
二泊いや一拍
妹の家に二泊いや三泊。

1週間をこの町で過ごして
天使とサガは
帰っていった。

妹の買い込んだ服ときたら
バービー人形のシリーズみたいだったよ。
フランス人形
セーラー服
お姫様

天使は
何を着せられても
逆らわないものだから
毎日とっかえひっかえ着替えさせられてた。

サガは、
そのバービー人形シリーズを
有り難く受け取ったが
帰る日にはジャージを着せていた。

妹はサガに
また来てね

繰り返し
繰り返し
繰り返し
言っていた。

俺たちは
もちろん空港まで送った。
出発ロビーでは
妹が盛大に泣いていて
しかも
あの二人だからな。
辺りの注目を集めたよ。

どうしているだろう。
天使が頑張っていれば
俺たちも
あの子をテレビで見られるらしい。

友人の奥さんに頼んで
勉強しておこう。

俺は待ってるんだ。
二人が
また
我が家にやってくる日を。

サガは天使をどう守っていくだろう。
それが俺の心配事だからさ。

いつでも頼れる大人でいたいんだ。
だって
俺も妹も
人生の先輩なんだから。

画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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