この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






黒猫物語番外編 不在の1週間<初秋>4
2015-12-29 20:04:49
テーマ:クロネコ物語




二人を自宅に迎えたのは
日付が変わるころだった。


今夜は入院してもと思ったが、
天使の様子を見て
サガが決めた。

診察が済んでからは
口をきかない
反応を示さない
人形のようになってしまった。

俺も急いで手配した。
妹がいるんだ。
世話好きの涙もろい女だ。



ドアを開けると、
妹が飛んできた。

天使を見ると
早くも涙ぐんでいる。

丁寧に挨拶するサガにも
サガにしがみついたまま俯く天使にも
妹はいたく感銘を受けたようだ。


とりあえずお風呂よ。
お風呂を用意してあるの。
と二人を連れていく。

暫くすると
微かな水音が
聞こえてくる。

ダイジョウブ
ダイジョウブ
サガが唱える呪文がかぶる。

戻ってきた妹は言う。
天使は
サガの為すがままに
服を脱がされていたそうだ。

サガは
腕を怪我している。
バスタブに寝かせて
洗ってやっているらしい。



妹は
可哀想に
可哀想に
と鼻をすする。

あんな綺麗な子は
見たことがない。
まるで天使じゃないの。

悪い奴がいるものね
どんなに
怖かったかしら。

妹は
ホットミルクに
たっぷり砂糖を入れた。



天使がサガに連れられて
戻ってきた。
妻のバスローブがぴったりのサイズだ。

妹が
二人に椅子をすすめる。
サガが天使を座らせ
自分も横に座る。

妹は
天使の前に
ホットミルクを置いた。

精一杯明るい声で言う。
甘いものが
幸せを連れてくるのよ



サガが
天使を抱き寄せる。
天使の手に手を添えて
マグカップを持たせる。

妹は
両手を
祈るように握り締めて
天使を見詰める。

俺は
固唾を呑んで
身を乗り出すようにして
天使を見詰める。



天使が
コクンとミルクを飲んだ。
『イイコダ』
サガがまた呪文を唱える。

コクン
コクン
と天使がミルクを飲むのを
大の大人が息を詰めて見守っていた。



マグカップを置き
サガは
天使に
何か囁く。

天使が顔を上げ
俺たちを見た。

あ、
と初めて
気が付いたように
まじまじと
俺たちを見ている。


また
サガが
何か囁いた。

「アリガトウゴザイマス」

天使が呪文を唱えた。
なんて可愛い声なんだろう。

『Thank youという意味です。
感謝します。』

改めてサガが
深く頭を下げた。



俺とサガもホットミルクを飲み、
妹はまた涙ぐんだ。

天使は
澄んだ目で
俺たちを見詰めている。


二人には客室のダブルベッド
妹には俺のベッド
俺は居間のソファだな。

とにかく
何か口に入れられた。
天使が地上に足を着けた。
今夜はそれでいい。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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