この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





女の子襲来
2015-11-29 14:56:43
テーマ:クロネコ物語




嵐は
休日の昼下がりにやってきたのよ。



ま、もう夜だけどね。

ストレッチ
マッサージ
食事
までは日常が救ってくれたから。



ソファに座る二人。

サガさんの胸に身を預け
タブレットを開いていた彼が
口を開く。

「ミチコさん、
 綺麗な人だったんだね。」



サガさんは
本から目を離さぬまま応える。

『ああ。
  なぜ訊く?』


「さっきの女の人、
   ミチコさんの妹さんでしょ?」

仔猫は質問に質問で応じる。
ま、
ビミョーに尖るわよね、
雰囲気が。



『そうだ。
   よくわかったな。』

サガさんは
変わらず本を読み続ける。



むきになる仔猫ちゃん。

「サガさん 、
   驚いてたもの。

   そっくりなんでしょ?
   髪型変えたって言ってた……。
   ミチコさんと同じにしたんだよね。」


パタンと本が閉じられた。

『気になるのか。』




仔猫は
タブレットを抱えて
顔を上げない。



『どうした?』

頑なに
振り向かない仔猫。



「…………」

狼はすっとタブレットを取り上げ、
仔猫をくるっと下に組み敷いた。



『白状しろ。』

真上から見下ろされ
仔猫はたじろぐ。



「な、何を?」

狼は見透かしたかのように問う。

『何か言われたのか?』

「ち、ちがうよっ!」

目を泳がせちゃあ
丸わかりじゃないの。



この二人だけの愛の巣に
初めてのお客様が
現れたわけ。



留学に来たそうよ。
いきなり
インターフォンで名乗り
有無を言わさず
ここまで踏み込んできた。



サガさんが目当てなんですって。

何で分かるか?

宣言していったもの。
この仔猫ちゃんに。



《あたしね、
   サガさんが好きなの。

   あなた綺麗なんだもの。
   心配になっちゃう。

   手ぇ出さないでね。》



まあ
悪い子じゃない。
そこは問題じゃない。


仔猫ちゃんの情報処理能力が問題ね。




狼は重ねて訊ねる。

『何と言われた?』

「……………あの子のこと……好き?」

『かわいく思っている。 』

「………………僕より好き?」

『比べるものじゃない。』

「……ミチコさんに似てるんでしょ?」

『…………何を心配してる?』



狼は身を起こし
抗う仔猫を
膝に乗せた。


仔猫は
膝に乗せられてからは
大人しい。

大人しく俯いている。



『ミチコはミチコだ。
  大切な女だ。
  生涯に一人と思っている。

  それは変わらないし
   変えられない。』


はっと上がる顔を
サガさんの
落ち着いた目が迎えた。



「ごめんなさい。
  そんなつもりじゃ……」

すっと
仔猫の唇が塞がれる。



しばしの後
唇を離し
仔猫の頭を胸に抱いて
サガさんは語る。

『わかっている。
   お前は
   ミチコに嫉妬したんじゃない。

   ユキがミチコに似ているから
   不安になっただけだ。

   お前はミチコを
   大事に思ってくれている。

   わかっている。』


「ごめんなさい。」

胸にある頭から
小さな声を聞きながら
狼は続ける。


『俺の一番はお前だ。
   変わらないし
   変えられない。

   姿形で変わるものでもない。

   この肌にどんな傷がつこうが
   この手足がなくなろうが

   俺はお前がわかる。

   泥を被っているなら
   その泥の中から
   お前を見つけてみせる。

   どんな汚泥の中にいようと
    お前はお前だ。

     間違えはしない。』



仔猫?
白豹?
どちらかしら……。


狼の胸から頭をもたげた。

「サガさん……
   でも
   サガさんは
    僕に夢中じゃないよね。

  いつも落ち着いてる。

   僕……
   サガさんに
   夢中になってほしいんだ。
   僕に。

   僕が
   サガさんに
   夢中なくらい。」

彼はサガさんを見詰めて
そう言い放ったの。





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