この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









体から取り戻す心
2015-11-19 11:07:20
テーマ:クロネコ物語







狼が胸に抱いて帰って来たのは
………………美しい一体の人形だった。




口をきかない。
サガさんもしゃべらない。

黙ったまま居間に入り、
そっとソファに降ろし
傍らに寄り添う。



『帰って来たぞ。』

囁きかけるサガさん。




抱き寄せれば
そのままに腕の中にある人形を
静かに撫でさすりながら
サガさんは繰り返す。


『帰って来たぞ。』




美しい人形は
パジャマのまま
動かされるままに揺れ
狼の胸にある。



毛布から零れ落ちた左腕の内側には
青く注射針の跡が広がっている。



サガさんの携帯が鳴る。 
仔猫は
その音にも反応しない。

10コールが動かぬ二人の間に
虚しく響く。




サガさんは
そっと仔猫をソファに凭れさせ
立ち上がる。

『……sorry 』繰り返し聞こえるのは
その言葉ばかりだ。
電話を切り
サガさんはソファに戻った。




仔猫を抱き上げ
サガさんは寝室へ向かった。

ベッドに仔猫を降ろすと
仔猫を見下ろしながら
サガさんは言ったの。 


『もう点滴は限界だ。
お前を病院へは戻さない。』




仔猫には聞こえていない。

夜着を脱がされながら
その目は動かない。



シーツには
一体の人形がしんと静かに寝かされた。
白磁の肌の下腹部に
小さく傷が見える。



脱ぎ捨てた服をそのままに
狼の褐色の体が
仔猫を覆う。



狼の愛撫が始まる。

瞼を閉じもせず
あられもなく広げられた四肢をそのままに
壊れた人形はぐらぐらと揺れている。



『愛している』

狼は囁く。
人形の胸をまさぐる指が
そこに走る微かな痙攣を読み取る。




『愛している』
狼の愛撫に
白い肌に刻印が捺され
白磁の胴に痙攣は広がる。




ぁ……ん

『愛している』

眉がひそめられ
背が反り返る。



『愛している』
い……いや…………

狼の舌が
そのうなじをなぶる。



『愛している』

深々と長いくちづけが始まる。
僅かな解放の繰り返しに
支配される仔猫の呼吸と感覚。




仔猫の息遣いが取り戻されていく。

「サガ……さん?」

微かな声がした。





震える体を片腕に抱き、
そっと布団を引き寄せると
狼は仔猫を宥めるように
両腕に抱く。



「僕…………、
  またねだったの?」

狼の胸にそっと触れながら
おずおずと仔猫は問う。




『いや。
俺が脱がせて
俺が抱いた。』


「…………なぜ?」


『お前を取り戻すためだ。』


「……………………?」


『もう1週間が過ぎたんだ。

   傷は回復したが
   何も食べていないので
   体力が落ちている。』


「…………覚えてない。」


『お前の心は閉じ籠っていた。』


「…………病院は?」


『行かない。』


「いいの?」


『俺が連れ帰った。
   お前は俺が治す。

   とりあえず
   お前は目覚めたしな。』


「…………僕、サガさんに
  …………抱かれたの……?」


『いや、
   俺のものにはしていない。
   起こしただけだ。


  お前は覚えていないだろう。
  忘れろ。』



仔猫をそっと身を起こし
狼の唇にキスした。
そして、
静かに待った。



身を返した狼が
優しくキスを返すと
仔猫は囁いた。

「僕、
   覚えてる。

   サガさんの
   愛している
   って声がした。

   身体中が熱くなって
   すごくサガさんが欲しくなった。

   覚えてる。」



静かな時間が流れる。

「サガさん、
   僕も愛してる。」




仔猫は生まれたままの姿で
愛しい狼に
抱かれながら
囁く。


愛してる…………愛してる 愛してる……
を繰り返しながら
眠りにおちていったわ。




己の残した刻印が
仔猫の胸に腹に薔薇色に刻まれている。



意識をなくしたまま
快感に身をまかせる仔猫の
艶かしかったこと。



ぞくっとしたわ。
サガさん
あなたは覚えてるわよね?


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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