この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





あなたの一番に
2015-11-03 15:19:44
テーマ:クロネコ物語




朝の珈琲を入れながら
サガさんが尋ねた。



『どこか出ないのか? 』



そっか
お休みの日ね。




「うん。」



『俺は打ち合わせがある。

留守にするが、
大丈夫か?』



「……いつ戻るの?」



『昼過ぎになる。

食事は作っておく。
ちゃんと食べろよ。』



「何時に戻るの?」



『4時には戻る。』



「4時だね。」





で、4時だ。
玄関のドアは開かない。



4時10分だ。
携帯にかける彼。



………………出ないのね。



ソファにかけ、
親指の爪を噛んでいる。



何回かの携帯呼び出し
何十回かの部屋中ウロウロ



私はキャットツリーに避難したわ。
動きが止まらないんだもの。
危なくてしょうがない。



5時になったところで…………、
彼はバタバタと
上着を羽織り、
財布を掴んで
玄関に走った。





カチッ ガチャ


ちょうど
入ろうとしたサガさんが
立っていた。





『どうした?
出掛けるのか?』



彼は無言で
サガさんに抱きついた。
広い胸に顔を押し当てる。




サガさんの手が
優しく
その背に回される。



『時間は覚えていた。

携帯を忘れて連絡できなかった。
済まない。』



サガさんを見上げる彼は
もう微笑んでいる



「……よかった。
心配しちゃった。」






夕食後
居間のソファにサガさんが座ると、
彼は
その膝に頭を載せる。




「ねぇ、サガさん。」


『何だ?』


「僕を好き?」




サガさんは手にした本を下ろし、
目を落とした。



膝の上には
愛しい者が横顔を見せて
答えを待っている。




『ああ。』


「どんな好き?」


『好きは好きだ。』


「僕、
サガさんがいないと 
おかしくなっちゃうみたい。」


『心配したからだろう。
済まなかった。』


「ううん。
僕が変なんだ。」




彼は身を起こして
膝を抱えた。



サガさんは
静かに待っている。



「僕、
こんなによくしてもらう理由なんか
ないよね。」



その肩を
サガさんは抱き、
振り向かせる。



サガさんを見上げると
彼の目は
潤んだ。



「僕、
ただやりたいことだけ
してるんだ………。

みんなは
すごく大変なのに…………。

僕一人で逃げてきたんだ。」




その目を頭ごと胸に抱き締め、
サガさんは
時間をおいた。



『……ミチコは、
あの日死んだんだ。』



サガさんは腕に力を込めて
見上げようとする
彼の動きを
封じた。



『お前は
自分の人生を一生懸命生きている。

それが人を力付けるんだ。

お前が頑張ることが
俺には救いだった。』




『ミチコの分まで
必死に
お前が生きている。


ミチコの分まで
みんなの分まで
お前の頑張りは絶対負けない気持ちを
俺にくれた。』




サガさんが
力を弛めると
彼は
そっとサガさんを見上げた。




サガさんが泣いていた。



彼はサガさんの頸に
両の腕を回した。
胸に胸をぴったりと合わせて
彼は囁いた。



「僕、頑張るよ。
ホントに頑張るよ。」




サガさんの嗚咽が響く。


彼は目を閉じて
サガさんの
嗚咽を
全身で聴いていた。




ベッドに入るとき、
彼は宣言したの。

「僕、
サガさんの一番になりたい。」





にこっと笑って
布団に潜り込む彼を

サガさんは
呆然と
見詰めていたわ。





うーん。
仕方ないんだけどね。

この墓穴は
やばいんじゃないの?
サガさん。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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