現在建築中の「松戸の家」は、今時の家には珍しく、「縁側」、「広縁」があります。
「縁側(えんがわ)」、昔懐かしい響きです。
私の田舎の実家にも,縁側がありました。
現在は、解体してしまいましたが、床の間付の和室と、和室の続き間の前に,縁側が有り、縁側の前の庭では、メンコ(田舎では、パッタとも呼んでいた)をして遊んだり、夏には、花火をしたりの遊び場でした。
縁側は、畑でとれた大豆や切り干し大根や、干し柿などの乾燥所だったりの役目もし、にわか雨も心配の無い、選択干し場や布団の干し場だったりの多用途の役目もこなせる場です。
さらには、近所のおばあさんが、玄関を通らず、直接、縁側にやってきて、世間話や暇つぶしの話にに必要な社交場にもなる、多目的な空間でした。
夏は、強い日差しが室内に防ぐ役目をし、涼しくたもつ役目をし、冬は縁側の雨戸と室内の障子戸の空間が断熱層の役目をして、茶の間や座敷を冬の厳しい寒気から守る役目もしていた空間ですが、私の実家は、隙間が有り、冬の吹雪の朝は、戸の隙間から差し込んだ雪が積っていたことが今ではなつかしい思い出となっています。
現在の家づくりでは、断熱サッシにペアガラスで、断熱効果に優れた,より快適な縁側を造ることが出来ます。
さて、今回の,その5では、縁側や、広縁、ローカに,縁甲板やフローリングを張るときに、廻り角、つまり、コーナーの部分の板の張り方です。
ローカ部分でも、当てはまりますので、ご注意ください。
張り方には、「留(とめ)」と「石畳(いしたたみ)」張りがあります。
「留め」は、どうしても,手前部分が隙やすいので、避けた方が良いようです。
「石畳張り」のばあいは、必ず、右前とし、一番内側の一枚だけは、留めにすることを定法とされています。
「右回り」に張るのを吉とし、定法となっています。
「人(ひと)」の字になるように、右回りに張るのが正しいとされています。
これとは逆に、「左回り」は、左前と同じように、物事が思うようにならない、運勢が悪くなるとして、家相でも大変嫌われます。
縁甲板、フローリングが、「入(いり)」の字に組まれることを、「左巻き」と言い、「左巻き」は、辞書でも調べると、頭が悪いこと、頭の回転が鈍いことをいう(=馬鹿・阿呆に類する)。とあり、そのようなことを言うものとして、嫌がられます。
天井板を、杉,ヒノキなどの内装板材で張るときも、注意が必要です。
天井板を、廻り角、コーナーに,回り張りする場合も、同様に、右回りにしますが、これは、人が下から見上げた時に,右回りに見えるようにするのでは無く、天井の上方から見て、「人」の字になるように、右回りにしなければなりません。
その根拠は、わかりませんが、そのようなしきたりになっています。
また、縁甲板やフローリングの枚数は、9枚、11枚とか、必ず奇数枚とされていますが、現在では、市販の縁甲板やフローリングを使用するので、必ずしも、奇数枚になるように,割り付けしますが,そのようにならないこともあります。
私の若いときの思い出として、ある大工の名人として、多くの大工さん達から慕われている方と、初めて、仕事をしたときに、その名人の大工さんから、当時、若造であった私を困らせようとして、この広縁のコーナーの床と天井の張り方をどうしたら良いかと投げかけられ、試され、宿題にされ、数日後の、現場打合せで、張り方を指示したところ、今まで、キチッと答えた方はいないと言うことで、その後、親しくなり、現場は、もちろん、飲み会にも良く誘われ、いろいろなことを教わりました。
困ったときは,相談乗ってくれ、助けてくれた大工さんでした。
飲む席では、縁側のコーナーの天井の張り方まで知っているのは、俺の大工人生で、「鈴木さんだ。」とよく言われていましたが、その名人もよる歳には勝てず、だいぶ前にリタイヤしてしまいました。
実は、竿縁のところで、紹介いたしました金沢の兼六園にある成巽閣の、ローカで、コーナー部分が、右回りで、「人」になっているか確認しましたところなっていました。
最近の現場では、大工さんも知っている人は少なく、また、そのようなことは気にしている方は少なく、まして、設計者や、現場監督さんは、大工さん任せにしたりしていている人が多いようで、左巻きの左前、「入(いり)」に、張られた現場を良く目にします。
前回も,言いましたが、本物を機会が少なくなり、大工さん達も、国産材の無垢材を内装材に使うのは,初めてと言うこともある時代なのです。
本物を使わなくなると言うことは、使わなくなった物の文化や技術も無くなってしまうのかもしれません。
残念です。
次は、その6です。お楽しみに。
株式会社スズキ建築設計事務所
取締役相談役 鈴木 明