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初夏の柔らかな風が、博多駅筑紫口の賑わいの中を吹き抜けていく。午前8時50分、大型バス駐車場前。今日の旅の始まりを告げる場所には、日常の喧騒から少しだけ離れようとする旅人たちが集まっていた。期待に胸を膨らませる人、お気に入りのカメラを愛おしそうに確認する人、それぞれの思いを乗せて、午前9時ちょうど、静かにバスは滑り出した。都会のビル群が車窓の後方へと流れ去り、車内には旅のプロローグにふさわしい、心地よい高揚感が満ちていく。

​はじまりの深呼吸:道の駅 くるめ

最初の目的地へと向かう道中、車窓の景色はコンクリートのグレーから、鮮やかな緑と耳納(みのう)連山の美しい稜線へと移り変わっていく。約30分後、バスが滑り込んだのは「道の駅 くるめ」だ。

​バスの扉が開くと、筑後平野の豊かな大地が育んだ、瑞々しい空気が出迎えてくれた。ここでは約30分の短い滞在だが、五感を刺激するには十分な時間だ。朝採れの新鮮な野菜や果物が所狭しと並び、大地のエネルギーが満ち溢れている。旅人たちは、まるで宝探しをするかのように目を輝かせ、地元の特産品を手に取る。ほんのりとした甘い香りに誘われて、筑後ならではの銘菓を口に運べば、旅の始まりを祝うかのような優しい味が広がった。

​静寂のあじさい寺:千光寺

​再びバスに揺られることしばしば、一行は深い静寂に包まれた「千光寺」へとたどり着いた。ここは別名「あじさい寺」とも呼ばれ、一歩足を踏み入れば、まるで別世界へと迷い込んだかのような錯覚を覚える。

​割り当てられた約40分の時間は、日常の時計の針とは異なる、ゆっくりとした川の流れのようだった。境内を埋め尽くす色鮮やかなアジサイたちが、朝露をまとってキラキラと輝いている。青、紫、ピンク――グラデーションを描く花々の小径を歩けば、耳に届くのは風に揺れる葉の音と、遠くで響く鳥のさえずりのみ。歴史あるお寺の荘厳な佇まいと、可憐な花々のコントラストが、旅人たちの心をじんわりと解きほぐしていく。誰もが言葉を止め、ただその美しさを胸に刻み込むように、深く静かに息を吸い込んだ。

​芳醇なる森の恵み:巨峰ワイナリー


​静寂の寺を後にしたバスは、さらに緑深い耳納連山の中腹へと進路を取る。次に現れたのは、日本における巨峰開墾の歴史を刻む「巨峰ワイナリー」だ。

​約30分の滞在。一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気の中に、甘く芳醇な葡萄の香りが漂っている。豊かな自然の恵みを受け、丁寧に、そして頑なにこだわり抜かれて造られるワインたち。試飲グラスを傾ければ、口いっぱいに広がるのは果実そのものの生命力と、職人たちの情熱の結晶だ。窓の外に広がる広大な葡萄畑を眺めながら、大地の恵みを五感で味わう。それは、ただ飲むという行為を超えた、大自然への感謝のひとときでもあった。

​贅沢が溶け出す午後:グランドエンパイアホテル

 ​旅はいよいよ、本日のハイライトへと向かう。バスが到着したのは、洗練された佇まいで訪れる者を魅了する「グランドエンパイアホテル」。ここで過ごすのは、約90分という「優雅なアフタヌーンティー」の時間だ。

​日常の喧騒を完全に遮断したラグジュアリーな空間。クラシックな音楽が心地よく流れる中、運ばれてきたのは、まるで芸術品のように美しい三段のティースタンドだった。上質なスコーン、季節のフルーツをふんだんに使ったスイーツ、そして丁寧に淹れられた香り高い紅茶。

​「なんて贅沢な時間かしら」


​誰からともなく、感嘆の息漏れが響く。フォークを進めるたびに、贅沢な味わいがお茶の香りと共に心へと溶け出していく。窓から差し込む午後の柔らかな光を浴びながら、贅沢な調度品に囲まれて過ごす90分間。それは、日頃がんばる自分自身への、この上ないご褒美となった。

​美と生命のシンフォニー:アシュラン美術館とバードハウス


優雅なアフタヌーンティーの余韻に浸りながら、旅の最後の目的地である「アシュラン美術館とバードハウス」へと向かう。ここでは約60分の滞在が用意されていた。

​美術館の重厚な扉を開けると、そこには洗練された美の世界が広がっていた。選び抜かれた美術品の数々が放つ圧倒的な存在感に、息を呑む。作家たちの魂が込められた作品を前に、旅人たちは静かにそれぞれの感性を研ぎ澄ませていく。


​そして、隣接するバードハウスへと足を運ぶと、世界は一転して生命の躍動に満ちあふれた。色鮮やかな鳥たちが自由に羽ばたき、美しい声でさえずる空間。人工の「美」と、自然の「生」。この二つの要素が奇跡的な調和をみせる場所で、旅の終わりを惜しむかのように、贅沢な1時間が紡がれていった。

​旅の終わり、そして日常へ

​すべての目的地を巡り、充実感を乗せたバスは、夕暮れの気配が近づく福岡の街へと戻り始める。車内は、朝の出発時とは異なり、どこか満ち足りた、穏やかな静けさに包まれていた。

​午後4時頃、バスは出発地である博多駅へと滑り込んだ。

ドアが開き、再び見慣れた都会の風景が目の前に広がる。しかし、参加した旅人たちの心には、朝とは違う何かが確かに残っていた。筑後の大地の恵み、お寺の静寂、芳醇なワインの香り、ホテルの優雅なひととき、そして美と生命の輝き。

​たった1日の、されど永遠のような美しい記憶を胸に、旅人たちはそれぞれの日常へと、再び歩みを進めていくのだった。


 

 

 

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