防衛大臣の経験がありながら、何と不勉強なのか。
小池氏、制服組の発言力増を懸念=9条改憲の首相提案に【17衆院選】
(時事通信 2017年10月8日(日) 17:48)
希望の党の小池百合子代表は8日の党首討論会で、憲法9条に自衛隊を明記する安倍晋三首相の提案について「防衛省と自衛隊の関係が逆転してしまうのではないか」と述べた。制服組の自衛隊の発言力が増大し、文民統制が揺らぐことへの懸念を示したとみられる。
小池氏は「防衛省設置法があり、実力部隊の自衛隊の部分だけ取り出していくと、関係が逆転してしまう」と指摘。政府は既に自衛隊は合憲だと解釈していることから、首相提案について「大いに疑問がある」と述べた。
わずか2か月だったとは言え、防衛大臣を務めていたのに、シビリアン・コントロール(Civilian Control Over the Military:文民統制)がどういうものなのか、理解出来ていなかったようですね。
文民:英語のシビリアン(Civilian)を訳す際、「現役の軍人でない者」という概念がなかったために、当時の政府が作った訳語。
今の日本で言えば、現役の自衛官でない者を指し、自衛官を退官した者も「文民」として扱われる。
このため元自衛官だった人から防衛大臣(庁長官)に就任した例が、複数ある。
シビリアン・コントロールとは、現役の軍人でない者が軍隊の最高指揮権を持つという仕組みの事で、国家の最高権力者、または実質の行政の長に現役の軍人が就くことが無いようにする仕組みの事です。
日本国憲法の規定では、内閣総理大臣は国会議員の中から選出されるように定められています。
同じく憲法で、内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならないと定められています。
速い話、安倍政権が憲法9条に追加するという第3項に、『内閣総理大臣や防衛大臣に現役の自衛官が就任できる』と書かれない限り、シビリアン・コントロールが崩れる事はないのです。
そもそもこの様な仕組みが憲法に定められた理由は、現憲法の前身に当たる、大日本帝国憲法の欠陥により、軍組織の暴走を止められなかった事への反省があります。
旧日本軍がしばしば政府を無視する行動が出来たのも、以下の欠陥があったからです。
1.内閣総理大臣に現役の軍人が就任出来た事
2.憲法の規定上、内閣総理大臣はその他の国務大臣と同格とされ、総理大臣に直接的任免権が無かった
(現在の日本国憲法では、内閣総理大臣に閣僚に対する任意の任免権が与えられている)
3.憲法上の規定ではないが、陸軍大臣、海軍大臣は現役の軍人(それも中将以上)が就任する事になっていた(軍部大臣現役武官制)
(一時期予備役、後備役の中将以上でもよい事になった時期はあったが、実際には現役以外の軍人が就任した例はない)
4.このため、陸軍大臣、海軍大臣が辞職した際、後任の大臣が陸軍、海軍から送られてこなかったら、内閣は総辞職に追い込まれた
5.この規定を利用する事で、軍の意に沿わない政策を採る内閣を排除し、軍人主導の政権がしばしば誕生、それが戦前の政治を狂わせることとなった
先に説明した日本国憲法の規定を見れば、大日本帝国憲法にあった欠陥が、きちんと改められている事が分かると思います。
更にそれだけではなく、防衛大臣を補佐する役職に副大臣(だいたいは与党の国会議員が就任)とその下の政務官まで、現役の自衛官が就任出来ない決まりになっています。
つまり小池氏の発言は、不勉強そのもの。
言葉尻を捕らえて批判をしているだけです。
引用記事で言う、『防衛省と自衛隊の関係が逆転』もあり得ません。
その理屈が通るなら、世界中の国家の軍隊が、軍隊の指令組織よりも偉いという事になってしまいます。
末端の軍組織は、軍の指令組織の指揮に従って運用されるのは、組織上、わざわざ規定するまでもない当たり前のことであり、それで末端が勝手に行動する事は、通常ありえません。
そんな事があれば、反乱として処断されるだけであり、いかな理由があろうとも軍法会議ものです。
小池氏の不勉強もさることながら、何の疑問も持たれず、それが正しい事の様に堂々とマスコミに掲載されている事を見ても、マスコミの記者たちに、軍事に対する知識が備わっていないな、と思いますね。
諸外国だったなら、すぐツッコミが入って、小池氏の資質が問われる内容の記事になっていたと思います。
小池氏の不勉強を他山の石とせず、是非皆さんも必要最低限の軍事知識を身に着けるように心がけてください。
<蛇足>
本日10月10日の午前7時1分の予定で、種子島宇宙センターから『みちびき4号』の打ち上げが予定されています。
打ち上げのライブ中継はこちらから、午前6時45分くらいから開催される予定です。
お時間があり、ご興味のある方は、宜しければご視聴ください。