「望月の烏」八咫烏シリーズ 第二部4作目。 | 机の上のちいさな箱

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八咫烏シリーズ第二部4作目
「望月の烏」の感想・考察を
ざっくり書いていきます。


⚠ネタバレありますので
 未読の方は どうかご注意ください。




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「望月の烏」阿部智里 文藝春秋



若き金烏の新たな后選びに波乱の予感――。 
累計200万部突破&アニメ全国放送決定! 大人気異世界ファンタジー「八咫烏シリーズ」待望の最新作。
絶対権力者・博陸侯の後ろ盾のもとで、 新たに異世界〈山内〉を統べる金烏代となった凪彦。 
その后選びのため、南北東西の大貴族の家から選ばれた、 四人の姫君たちが、宮中での〈登殿の儀〉へと臨む。 しかし下級官吏として働く、絶世の美姫の存在が周囲を――。 


目次 用語解説 人物相関図 山内中央図 
序章 
第一章 俵之丞 
第二章 桂の花 
第三章 凪彦 
第四章 松高 
第五章 雪斎 
第六章 澄生 
終章



 望月の烏 を入れて時系列を確認してみます

 弥栄の烏→弥栄
 楽園の烏→楽園
 追憶の烏→追憶
 烏の緑羽→緑羽
 望月の烏→望月 と省略しています。


  • 1995年 猿との大戦(玉依姫・弥栄)
  • 1996年(安永元) 奈月彦即位、紫苑の宮誕生(弥栄)
  • 2003年あたり 凪彦誕生
  • 2004年 夏 雪哉外界へ遊学(追憶)
  • 2005年(安永9) 奈月彦暗殺される、浜木綿、紫苑の宮行方不明(追憶)、雪哉 博陸候になる
  • 2007年 凪彦即位、地下街区画整理
  • 2008年 安原作助行方不明
  • 2011年 紫苑の宮と翠寛が長束のもとに現れる  (緑羽)
  • 2015年 澄生 登場(追憶)
  • 2015年 春 四姫登殿(望月)        秋頃澄生逃亡               荒山の権利が動く(望月)                   夏〜秋頃「幽霊」登場(楽園)              安原はじめ 山内に入る(楽園)  

2015年に色々なことが詰まりすぎていてる感です。
どこかで一年ズレているかもしれません…
2015年の中での時系列は予想です。


また、望月 時点で
地下街区画整理が5〜6年前との記述あり
私が考えていた時系列と2年ズレがあります…

一つ一つ項目は各々の本に拠るものなのですが…
やはりどこかで確認がズレているようです。


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さて、この巻で やっと
楽園の烏 の時間まで追いつきました。

楽園、追憶、緑羽、の答え合わせのような
一冊だと感じました。


時は 今上金鳥代 凪彦の御代。
追憶の烏 で突如現れた謎の親王 
凪彦のことが描かれていました。

どんな人物だろう とずっと考えていましたが
(私が勝手に予想していた以上に)
普通の人でよかったです。

あの捺美彦 と あのあせび の子なら
いったいどうなることかと
不安に思っていたのですが、
羽母の双葉のおかげか
かなりまともな感覚を持ってくれていました。
彼はこれからの展開の
キーポイントの一つになってくれる気がします。

今作は凪彦の后選び 登殿の一年を書いた巻です。
桜花宮が開かれ 四家の姫たちが登殿の儀を終え、
上巳の節句(巳の日の祓)
端午の節句(競馬)、七夕の節句
など季節の行事の様子も描かれています。
前回の登殿 奈月彦の后選びの時は
行事はことごとく主役不参加でしたので
今回とても新鮮に感じました。


第六章では、
澄生が紫苑の宮であったと
種明かしがありました。
以前の記事で書いていたように
葵の戸籍は架空のものであり
有事の際のとしてダミーとして
用意されていました。

 奈月彦が暗殺されるずいぶん前の
 紫苑の宮が生まれた一番幸せな時から
 浜木綿は備えていたのですね…。
 その浜木綿の心を思うと
 複雑な気持ちになります。
 奈月彦は紫苑の宮にダミー戸籍を
 用意していることを知っていたのでしょうか……

読む限りでは
西家では真赭・澄尾はもちろん
現当主である顕彦が知っていて
協力していたとわかります。
(次期当主の顕広は知らなかったみたいですね)
茜がどこまて知っていたかは微妙なところですが、
弟2人は知らなかったようです。
 読んでいてとてもよい家族だな と思いました。
 ”自分にできることをする” をモットーに
 粛々と行動することができる
 とても絆の深い家族だと思いました。



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次に 考察など書いていきます。



◎東家、東領のこと

  • 「松高」という人物
松高は今回初登場で

東領 鮎汲郷出身、

文売り(代筆)を生業としています。


 第四章のタイトルになっているということは、 
 今後重要な人物になりそうな予感がします。

松高は外伝「まつばちりての」
松韻と忍熊の子ではないかと思いました。
 烏百花 蛍の章  文庫P105「まつばちりて」
松韻 は先々代の金鳥代 捺美彦に仕えていた落女です。

松韻と忍熊の子ではないかと考えた理由は以下
 ○ 名前に「松」が入っている
 ○ 忍熊が左遷された先が東領 鮎汲郷であり
  松高の出身地と同じである
 ○ 松高が代筆=字を書く仕事をしていること

松韻と忍熊を結びつけたのも「書」「字」でした。

その2人の子どもも 美しい字の才能を

受け継いでいるのではと思いました。

また、松高の佇まいが単なる地方の文売りではなく
一本芯の通った 品のようなものがあると
感じたことも理由の一つです。

 まつばちりて を読んでから
 松韻と忍熊の子どものことがずっと気になっていて
 新しく登場する人物がいる度 
 2人の子どもはいないか…? と探していました。
 もしそうなら 嬉しいです。


また 東領 鮎汲郷は 雪斎の右腕 羽記 治真の
出身地でもあります。
この共通点には何かあるのでしょうか…


東家で気になるところとして
追憶の烏 で登場した早蕨も気になっています。
早蕨は東片瀬の正室とありますが
果たしてそれが本当かどうかもわかりません。
そして霞(早蕨)と一緒に東家朝宅にいる
小梅も気になります。
(小梅は 黄金の烏 以後初めての登場)


今回 登殿した山吹も
かなり頭の回る女性のようです。
現当主 青嗣が登殿状況を考えて
選んだのだな とわかる気がします。

大紫の御前になった あせび は変わらずの様子で
呆れるというかがっかりというか…
いつものあせび節が炸裂していて苦笑いでした。




◎南家
  • 融はいつまで当主なんだろう
南家以外の当主は皆世代交代しています。
 東家:遥人→青嗣
 西家:顕→顕彦
 北家:玄哉→玄喜

 (西家当主 顕彦のキャラ、私は好きです 
  外伝 烏百花 白百合の章「あきのあやぎぬ」参照)

ですが南家は 単・主の時から(20年近くも!)
変わることなく融です。

今回 彼がまだ現役であることに
「融いつまで当主なん… 他に誰かいないのかい…」
というのが正直な感想でした。

南家の貴族は女性ばかり登場している印象で
融の嫡子の名前、後継となりそうな男子の名前は
見たことがありません。

融の重々しさや動じなさ 安定感は、
ぱっと目立ちはしないけれど
静かで大きな力を発揮しています。
でも、その彼もいつまでも
生きていられるわけではありません…

今後、後継者の登場に期待ですね。


  • 撫子の再登場
今回は 単・主で登場して以降 
その動きが全く語られていなかった
女性たちが再登場しました。
前回の登殿した姫たちの姉妹、
東家の双葉、南家の撫子です。

 双葉は東家の本当の血筋の姫で
 凪彦の羽母となっていました。

撫子は融の実の娘であり、 
単 では少しかわいそうな役回りでした。
その撫子が密かに長束と手を組み
凪彦を支えてくれるとわかり
とても嬉しく思いました。
 南家もなかなかに割れてますね…

澄生(紫苑の宮) ― 長束 ― 撫子 ― 凪彦
この流れで “打倒雪斎“ で力を合わせていきそうです。

私は もうここまできたら
楽園の烏 の幽霊は紫苑の宮だと思います。
地下街の子どもたちの後ろにいるのも
紫苑の宮たちだと思っています。


雪斎の体制を変えたい・倒したいと思う勢力、
そして 山内の崩壊、
この2つがどう描かれていくのか
楽しみでもあり 不安でもあります。

 それにしても、北家の白珠、
 それから浜木綿はどうしているのでしょうか…





◎奈月彦が話したかったこと

以前の記事で『女金鳥の真意』と
少しだけ書いたのですが、
このことに関してずっと考えていたことがあります。

追憶の烏 初めに外界へ留学する雪哉へ
奈月彦が 帰ってきたら話したいことがある と
言っていました。追憶の烏 文庫P91
大事な用なら今お聞かせください と言った雪哉に
お前がフラットな状態で外界を見てきた後で
話したいと 奈月彦は言い
その後語ることなく暗殺されてしまいました。

その話したかったこと(雪哉に言いたかったこと)とは…

「山内にこだわらなくてよいのではないか」
ではないかと思います。


弥栄の烏 の最後 文庫P358〜360 
山内は滅んでしまうと嘆いた奈月彦に
浜木綿が言った言葉があります。

 確かに、山内は今までどおりにはいかないかもしれない。これから、人形だって取れなくなるかもしれないよ。でも、だからと言って、八咫烏がすべて死に絶えるわけじゃないんだ

 それまでの形でいられなくなったって、民はしぶとく生き続けるだろうよ


 八咫烏も山神も、神のままでいようとするからおかしくなるんだ。いいじゃないか、ただの鳥になったって

 そうさ。普通の八咫烏はな、お前みたいに、特別な力なんて持っていない。それでも、普通に生きている

 生きていけるものなんだ
 正直私は、お前が真の金鳥だろうが神さまの残骸だろうが、どうでもいいね。少なくともお前は、私の大事な親友で、大事な夫だ。私にとっては、ただそれだけで充分なんだ
 それは、お前にとっての八咫烏も同じだろう。お前は、人形をとれなくなったら、八咫烏を愛さなくなるのか?
 じゃあ、いいではないか、滅んでも

誰よりも信頼している妻 浜木綿に
このように言われて
真の金鳥として不完全な自分を責めていた
奈月彦の気持ちは 
変わっていったのではないかと想像します。

 山内が崩壊し、ただの烏になっても
 よいのではないか と。
 その烏たちを導くのが
 紫苑の宮でもよいのでは と。
 もともと この山には
 女烏の神様がいたのだから…(玉依姫・弥栄参照)

紫苑の宮を女烏の神になぞらえて
これからの山内、民が生きていく世界を
考えていたのではないかと 思います。

その思いを臣下たちと共有することなく
世を去ってしまいましたが、
千早あたりは少しわかっていたのでは と
思ったりもします。



雪哉は山内にこだわりすぎています、
本人は自覚があるかはわかりませんが…
とにかく 山内が 故郷が 好きでたまらないのです。
たぶん。

それは 好きだとか大事だとかには収まらず
執着している、と言ってもいいくらいだと思います。
これまでの全ての言動を見て そう感じます。

 これらの視点に少し寄って読むと
 追憶の烏 の 文庫P40 のやりとりも
 かなり理解できる気がします。


 「雪哉、山内にこだわらず
 皆が生きれる道を探していこう」
奈月彦は そう 言いたかったのはないか… 
そんな風に思います。


彼が話したかったことは
本当は何だったのか… 
いつか描かれる時が来るのでしょうか…






○幸せとは。楽園の烏を再読して

望月の烏を読んだ後に
追憶の烏、楽園の烏と改めて読みました。

楽園の烏 の最後に安原はじめが
頼斗と話すシーンが
以前読んだ時よりも 深く心に染みました。
楽園とは、幸せとは、何だろう…

 人の数だけいくつも幸せはあり
 ”幸せ” というものは他人には測れない
 ある意味 世界 だと思います…


 この世は地獄だと嘆くのは簡単だ
はじめの言葉は、頼斗に言うというよりも、声の届かない博陸侯に向けられているように感じられた。 
 諦めちまえばいいだけだもん。地獄のような状況に耐えているだけで、自分は偉いと錯覚出来る。でも、どうせ生きるなら地獄より楽園のほうがいいじゃねえか。幸せな時の仲良しごっことは少し違う
 人の真価は、困難な時にこそ現れるもんだ。困難の中で、それを仕方ないと諦めずに、ちょっとでも楽園に近付けようとする、そういう輝かしいものを俺は見たいんだよ
そんなものを探してあちこちを回り、裏切られ続けてここまできた
 そういった意味で言うと、山内はいいな。とてもいい
楽園の烏 文庫P342〜343


安原はじめはどのような形で
雪斎打倒と山内崩壊に関わるのか。
彼のことだから 思い切り傍観者として
楽しんでしまうかもしれません。
(はじめ と路近が楽しんで見物する姿が
 ほんのちょっとだけ想像できる…)




第二部5作目、そして外伝の発売が
とても楽しみですね。

それまで たくさん考えて
読みを深めていきたいな と思います。



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あまりまとまらない記事になりましたが

このあたりにします。

これから 何か考えついたら

追記していくかもしれません。




最後まで読んでくださり

ありがとうございました。**





いつも ありがとうございます*




如奈。