「客観性の落とし穴」。 | 机の上のちいさな箱

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「客観性の落とし穴」村上靖彦 ちくまプリマー新書



 基礎精神病理学・精神分析学博士を持つ著者が
大学での講義で学生からのコメントカードについて
ツイッターでつぶやいたことが
このを書くきっかけとなっています。


 学生のコメントカードに「それは客観的なのですか?」とか「客観的に見てみたいと思いました」というのがよくある。
こちらは「客観=真理というのが錯覚だ」、「量的研究も研究のセッティングで恣意的なのだからどっちが正しいとは言えない」と繰り返してるのだが、客観性信仰・統計信仰が根深い。(2019年7月4日)


*

客観性・数値化にばかり目を向け、
それが真理であると錯覚してしまうと
どのようなことになるのか。
何を取りこぼしてしまうのか、
大切なものを見落とすのではないか、
そのようなことが書かれています。

客観性の誕生から
どういった流れを経て現代に至り
人々の暮らしや心に影響しているのか
丁寧にわかりやすく綴られています。


第一章
   
   客観性という発想が生まれ、
   自然の研究と同一視されるに至った歴史
第二章
   自然だけでなく社会や心理までもが
   客観的に考えられるようになり、
   それに伴い現代社会に生じた帰結
第三章
   数値による測定が誕生し、
   真理が数値で表されると
   考えられるようになった歴史
第四章
   数値が重視された帰結として
   役に立つことへの強迫観念が生じ、
   序列と競争が社会のルールになった経緯
第五章
   客観性と数値が重視されるなかで失われた
   一人ひとりの経験の重さを回復するために
   「語り」を提案する
第六章
   偶然性とリズムという視点から、
   客観的で数値化される時空間とは異なる
   経験の時間を考える
第七章
   一人ひとりの視点から経験を
   解き明かす思考の一つとして
   「現象学」という方法を紹介
第八章
   競争と数字にもとづく非対称的な制度ではなく
   ケアに基づいて顔が見える関係から
   社会を作る可能性を考える


*

本の中から少し抜き出してみます。
心に残った文章です。



「患者の「痛い」という訴えが、検査データを見て客観を装う医療者の判断によって無視される。このように客観性の名のもとに患者本人の声がないがしろにされる場面は、医療現場の取材のなかでときどき見聞きするものである。

一人ひとり個別の経験の価値が下がったとき、経験の意味はどのようなものになるだ ろうか。
       第一章 客観性が真理となった時代 P17



数字による束縛から脱出する道筋を本書は探してきたが、それは数字や客観性を捨てるということではない。繰り返すが、問題は、客観性だけを真理として信仰するときに、 切り詰められること、さらには経験を数字へとすり替えたときに生の大事な要素である偶然性やダイナミズムが失われてしまうことだ。「客体化と数値化だけが真理の場ではない」ことを理解する方法が問われている。
    第七章 生き生きとした経験をつかまえる哲学 P135


他者の言葉と経験を尊重すること、そして他者を尊重する態度を尊重すること(つまり他者への暴力を許さないこと)、このことは根本的な倫理的態度となる。 
    第七章 生き生きとした経験をつかまえる哲学 P143


*

この本ではがん患者さんや医療従事者、
大阪にあるこどもの里 などの人々の
経験や語りが紹介されています。

第一章での文章は 胸にぐっときて
この本と一気に気持ちが近くなりました。

例えば、リウマチあるあるだと思うのですが
検査数値に出ない身体のあちこちの辛さ、
数値(CRPやRFやMMP-3)は上がらなくても
関節が痛み、腫れている状態、
CRPは下がってるから大丈夫!と
痛みを訴えても話を聞いてくれない先生、
(もちろん きちんと話を聞いてくださる
 素敵な先生はたくさんたくさんいます)
 etc.etc.

この世界中にある多くの病気にも
同じような あるある が存在すると思います。



本書を読むまで「客観」について
漠然とした思いしかなく、
ふんわりしたイメージとして捉えていた
「客観性・客観的」。
それについてはっきりした形で
認識することができました。

客観・数値で測れること 測れないことと
私自身、無意識のうちに
毎日付き合っていたものだったんだ、と。


*

いつも
客観的であろう、一般的であろう、と
努力していた気がします。

自分の思いや考え、経験に自信がない部分が多く、
 自分の考えはおかしいのかもしれない
 それは客観的に見たらどうなのか
そういうことばかり考えていました。
でも、この本を読んで 
その気持ちが少し薄らいで 
自分を肯定できる気がしました。


読めてよかったな と思いました。



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ここまで読んでくださり
ありがとうございました。*




冷え込みが厳しくなってきましたので
あたたかくして過ごしましょう(^o^)



いつも ありがとうございます*




如奈。