Vol.10「国境線上に咲く、クンシランとストレリチア」

 クンシラン(クリビア・ミニアータ)を愛する人は多いでしょう。けれども、人工栽培ではなく、自然が生み出したままの姿を知る人は果たしてどれだけいるでしょうか。
 自生地の南アフリカで、植物関係者に会って尋ねても、たいていの人が首をふります。「東ケープ州東部から、ナタール、トランスバール辺に自生しているのが判っているのだが、見たことはない」との答えが返ってくるだけなのです。

 私は、ストレリチアの研究が専門なので、クンシランは趣味程度にしか手がけていません。けれど、両種は形質に共通点がありますから、自生地は重なっているかもしれない、と思っていました。花色も同じ、オレンジ色と黄色で色素の構成がよく似ています。

 ストレリチア研究でぶつかる多くの謎を解く鍵がクンシランにあるのではないか、つねづね考えていました。進化の経路を探す意味でも関心を持っていたのです。
 そんなことから、南アフリカでのストレリチア自生調査のたびに、クンシランの自生に出会えたら、と期待していました。しかし、なかなかその機会に恵まれません。よく考えてみれば、見つからないのは当然のことでした。ストレリチアは明るい陽光を好みますから、開けた草原にあり一方、クンシランは半日陰を好む植物ですから、林やブッシュの中に自生しているはずなのです。これを探そうというのは、暗闇の中で、手さぐりするようなものでしょう。というのは、南アフリカの山野は、箱庭のような日本の自然とは、まるでケタが違うのです。私の思いは募るばかりで、手がかりは全くありませんでした。