私(母) 


「ここに地終わり海始まる」

詩人 ルイス.デ.カモンイス


初めて見る旅行者やハトを

眺めながら

もう歯も弱くなった

おじいさんは、広場のベンチに座っていた。


おじいさんは

ひなたぼっこしながら、行き交う旅行者とのアクシデントを

時々楽しみ くすくす笑って。

歯のない口元へポップコーンを

運び、アメを舐めるようにしゃぶる。しわしわの笑顔。


一緒に暮らしたことなどなくて

その人の人生を何も知らなくて

もう今後会うこともないだろう人

と過ごす時間は、どこか気楽。

どんな染みも付けたり、付けられたりしない。

 

私は息子と暮らしてきた。

愛情の染みも、苛立ちの染みも

暮らしてきた分だけ付いてる。

息子にも、私にも。

息子と共に暮らして

歴史を刻んできた。

それは幸せで、染みも証。

証だけど、重い時もある。

息子にも、私にも。

重さも含めて

そういうのが

家族なんだと思ってる。


今はもう あのベンチのおじいさんは生きていないと思う。

あれから15年以上経ってる。

15年以上分、

私も死に向かってる。

もし私もラッキーなことに平均寿命まで生きていけるのなら、

ひなたぼっこしながら

お互いのことを深く知らない人と

くすくす笑いながら過ごして

朽ちていきたいなと思う。

そんなおじいさんの死に様に

憧れたりする。


私もどうせなら

ポップコーンを買うわずかなお金とくすくす笑うユーモアを持って

朽ちていきたい。


最果ての地 ロカ岬で