私(母)


 朝 母を職場へ送迎する

車の中で「これ、昨日焼いたスコーンなの。たくさん作ったから

皆さんで食べて。」と

スコーンを10個以上入れた

大きなタッパーを渡した。


母はもうすぐ80歳。

アルツハイマー型認知症。

それでも、今も週に4日パートで

病院で働いている。



その日の夕方、

母を職場まで迎えに行く。

仕事を終え、病院から出たきた母。

今朝渡したスコーンを入れてあった

大きな空のタッパーを、手につかんで持っている。


母が車に乗ってくる際に

そのタッパーを受け取ろうと

私は運転席から手を伸ばした。


母は、

「ありがとう。

ごちそうさまでした。」

疲れた顔もしてるけれど笑顔だ。

母を乗せて車を走らせる。


「(昼休みが)一緒になった人たちと分け合って食べたわ。

師長さんは、『おいしいわ

お店出せばいいのにねぇ。』

って言ってくれていたわよ。

主任さんは

『なんでこぉ〜んなの作れちゃうんだろう?』と、スコーンを眺めながら不思議そうに食べてたのよ♡」と

昼休みに皆さんでスコーンをつまんだ様子を私に伝えてくれた。


認知症で忘れっぽくなっているのに

昼休みのことを、夕方になっても覚えていた。

そのうえ

私が焼いたスコーンを

誰がどのように褒め言葉を伝えてくれたかよく覚えていた。


以前、師長さんが私にこっそりと

仕事中の母の様子を教えてくれた。


「ナースステーションで仕事をお願いするでしょ。わかりましたって

お母さんはナースステーションを出て向かおうとするのよ。

それでナースステーションのドアから外へ出ると、なんの仕事を頼まれたかを忘れてしまうようなの。


お母さんは仕事は

ちゃんと出来るの。

だから、一緒に行って

仕事に取りかかってしまえば

お母さんひとりでこなせるのよ。

それとね、同じ話を何度もするっていうのはないわ。」

と伝えてくれた。

それは母がどちらかと言うと

無口だからかもしれない。


忘れっぽい母に苛立ちが募り

馬鹿にしてくる同僚もいるらしい。

それも母の被害妄想かもしれない。

ですが、職場だから

忘れっぽいのはやはり困ると思う。

母と一緒に働いている方達も

大変だと思う。

母も傷ついている日もある。


帰りの道中、スコーンを焼いた娘の私を皆さんが褒めてくれて

母は本当に嬉しそうだった。


そんな嬉しそうな母の話を

運転しながら聞いていたら、

涙が出てきた。

すぐに指で拭った。


嬉しそうに話す母に、

私が少しだけ泣いたこと

見つからないでよかった。