私(母)

観光地の広場で。


一緒に鳩の群れを追いかけて歩くピンク色の服を着た女の子と息子は、ベンチでひなたぼっこしているおじいさんの手のひらから時々鳩のエサをもらっていた。


ベンチに座るおじいさんのそばにいる息子が、遠くのベンチに座る私を

何度も振り返って見てくる。

息子は私を呼んでいるのだと思う。

立ち上がり息子の方へ歩き始めた。

女の子のお母さんらしき人も

向こうの方で歩きだすのが見える。


おじいさんの座るベンチのそばまで行くと、息子が近づいてきて

「このおじいさんが、鳩のエサを

食べなさいって言ってくるぅ」と

困った顔してる。

見るとおじいさんの座る横には

ポップコーンの袋。

おじいさんの手のひらには

「ポップコーン!」

女の子のお母さんと私は笑いながら同時に声を上げた。女の子のお母さんはアラブ系の顔立ちしてる。

私は息子に、これはポップコーンというお菓子でおいしいよと伝える。

おじいさんは手のひらのポップコーンを、女の子と息子に近づけた。

女の子と息子は顔が強張ったまま。体も硬くなっている感じに見えた。

おじいさんは受け取らないふたりから私達母親の方へ、ポップコーンの乗った手のひらを向けてきた。

アラブ女性も私も笑顔で

いくつか掴み食べた。

息子が、鳩のエサ食べるのっ??

という感じでハッとした顔を 

向けてきた。

おじいさんへ何故か私は日本語で

「ありがとう」と言った。

アラブ女性も何か言った。英語ではなかった。

彼女も彼女の母国語で、ありがとうと言ったんだと思った。

おじいさんも何か言った。声は小さくモゴモゴと何を言っているのかわからない老人の話し方だった。

その上 歯が何本かしかなかった。

見えたのは2〜3本。

おじいさんが笑って、それが見えた時。

女の子と息子は、腰が落ちて抜けそうになってた。

私とアラブ女性もびっくりした。

おじいさんはびっくりされることに慣れた様子で、びっくりしている私達を見てにこにこしていた。


女の子も息子もポップコーンを食べようとしないから、おじいさんは女の子と息子の前に手のひらを出して投げるような仕草をした。

女の子も息子もポップコーンを掴み、ポップコーンを再び鳩のエサに投げ始めた。

今まで座っていたベンチに

アラブ女性も私も戻り

ひなたぼっこの続き。


子供の頭って柔軟なようで

頑なだった。鳩のエサとしてわけてもらったポップコーンは人の食べるものではないみたい。

このことを覚えているかわからないけれど、息子は今もポップコーンは食べない。

映画を観てきたという息子に、

ポップコーン食べた?と聞くと

食べてないよーと毎度答えてた。


ひなたぼっこの続きは、離れたベンチでおじいさん、アラブ女性と私で

時々手を振りあった。

地味に連帯感が生まれた気がした。

しみじみ温かい気分だった。