私(母)


この間 バリ男性からもらった
バリコピ。細挽きのコーヒー豆。
インスタントコーヒーではない。
熱湯を注ぎ混ぜる。


混ぜたらスス(牛乳)を入れる。
熱々のコピススを飲みたいけど
コピの粉がしっかり沈むのを待つ。
待てなくて飲み、口の中で
コピの粉が貼りつくようになったことがある。気持ち悪いものだ。


コピの粉がしっかり沈んで
上澄みを飲む。
飲み頃はもうぬるい。
バリコピは香り高くないので
グラン・マルニエを数滴垂らして
オレンジの香りを足す。

プールサイドバーでモヒートを
作ってもらう。
それを片手にプールを過ぎて
海辺まで歩く。
砂浜でサンダルぬいで座る。
足の裏とお尻で
太陽の残りを感じる。
雨季のバリの風は
湿り気を帯びて
体中にだらしなくまとわりつく。
首にも足にも。
モヒートを一口すすれば
もうだらしなくぬるい。
今飲んでいるコピススもぬるい。
だらしなさが溶け合い
だるく心地よくなる。
このままこうしていたいと。

バリ男性の亡くなった妻の
最後に見た景色が
「実家に帰ったみたい」と
夫が思うような
静岡がんセンターの
窓から見える庭園だと思う。
バリ男性に「実家」という言葉を
教えたのは妻なのだろうか。
最後に見た景色が
バリのような庭園で
そこだけは そこだけは
綺麗でよかった。

飲み終えた。
コピの粉が残る。



バリ男性の妻はどこかで
あのだらしない風を感じながら
過ごせているのかな。