日本の神仙 | この美しき瑞穂の国

日本の神仙

古代中国の仙人は世を去る時に尸解(しかい)という不思議な術で昇天したという。


ある仙人は三日間身体全体が火に炙られたかのように発熱し、布団を被るやいなや突然姿を消してしまったという。そこで家人が布団をめくるとその仙人の皮膚だけが残されており、蝉の抜け殻のようであったという。この仙人はそれから十数年後、ひょっこり家に帰ってきたという。


またある仙人はある時見事な梨を食したかと思ったら静かに息を引き取ったという。その後、その仙人を納めた棺をあらためると亡骸はなく、中には一枚の護符があるだけだったという。



他にもある仙人はある日酒屋で酒を飲んでいた時に笙(しょう)の音と共に舞い降りてきた白い鶴に乗って昇天したという。



このように仙人には現世の肉体のまま昇天した人や、いったん死んだ後に脱皮するように仙人になる人がいたようだ。こうした仙人の昇天の話とヤマトタケ尊(※ヤマトタケルではなくヤマトタケである。)の最後はよく似ている。



ヤマトタケ尊は死後、白鳥となって翔び去ったという伝説があるが、ホツマツタヱではその様子を以下のように記している。



時に骸(おもむろ)  なる斎鳥(いとり)
出づれば諸(もろ)と  御陵(みささぎ)の
御棺(みひつ)を見れば  冠と
笏(さく)と御衣裳(みはも)と  留まりて
空しき空(から)の  白斎鳥(しらいとり)
追ひ訪ぬれば    大和国(やまとくに)
琴弾原(ことひきはら)に  尾羽(おは)四枝(よえだ)
置きて河内の  古市に
また四羽(よは)落つる  そこここに
成す御陵(みささぎ)の  白鳥(しらとり)も
ついに雲居(くもい)に  翔び上がる


ヤマトタケ尊の棺から白い鳥が飛び出したので棺の中をあらためたら冠と笏と御衣裳だけが残されていて藻抜けの空となっていたということだ。ヤマトタケ尊は死して白い鳥と化して昇天したのである。これは中国の仙人の尸解(しかい)とあまりにもよく似ているではないか。


中国において仙人には様々な階級があるようで先天的な生まれながらの仙人を神仙というそうだが、特に仙人になる修行をしたとは思えないヤマトタケ尊が亡骸を遺さず白鳥となって昇天したのは神仙だったからなのではないだろうか。ヤマトタケ尊は危機に陥った際に火水埴(ひみつ)の清祓(きよはら)いを唱えてヤマサ神を召還し、危難を逃れたことが数度あることからもやはり神仙だったのではないかと思う。


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ヤマトタケ尊の他にも日本の神仙といえば武内宿禰(たけのうちのすくね)も当てはまるように思う。武内宿禰は非常に長寿で第12代景行天皇から第16代仁徳天皇までの五代にわたってお仕えした名宰相で齢360歳に至ってからは因幡国に隠居し、双履を残して忽然と姿を消したという。

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ヤマトタケ尊と武内宿禰はきっと神仙だったに違いない。


仙人は不老不死で時間や空間を超越した変幻自在な存在であるから、昇天した彼らがある日突然ひょっこりと世に戻ってきたら面白いなと思うのである。