ラドグリフを読みながら | 斎藤英喜の 「ぶらぶら日記」

ラドグリフを読みながら

年末から読んでいた本。

 

 

アン・ラドクリフ『森のロマンス』(三馬志伸訳、作品社)。

昨年11月に出た新刊。言わずと知れた「ゴシックロマンス」の代表作です。

 

ある罪を犯した貴族ラ・モット夫妻が逃げ込んだ、鬱蒼たる森のなかの廃墟と化した僧院。そこに一緒に住むことになった美貌の女性アドリーヌ。彼らに襲いかかる悪徳侯爵の魔の手。僧院の地下室に隠されていた古文書。そして舞台はスイスの山並みが美しい素朴な村から、イタリア、ニース、パリへと変転して、最後に明かされるアドリーヌの過去…。

 

という感じで、ゴシックロマンスの醍醐味が詰め込まれた一篇です。

 

読んでいる途中、あまりの荒唐無稽、ご都合主義の展開、

そしてヒロインのアドリーヌが「好き」になれなかったのですが、

続きが気になって、結局500頁を超える長編を読み切ってしまった(笑)

 

それにしても、このどんでん返しの展開や人物造形って、

どことなく歌舞伎の世界に通じているような…。

 

アン・ラドグリフは、代表作として知られている『ユドルフォ城の怪奇』と続いて二冊目ですが、ほんと、巧妙に仕組まれた人物関係や構成は見事ですね。

 

なによりも、深い森や僧院の恐怖感や、スイスに近い明るく美しい村の風景とかの描写がいい。これって、18世紀に書かれたんですよね。

 

 

それと『森のロマンス』の装丁の絵は、まるで本作のために描かれたみたいですが、

こちらは『牢獄』や「廃墟」の画家として有名なピラネージの絵でした。

 

 

 

たぶんこの画家のことは、澁澤のエッセイとかで知ったのでは…。こちらも18世紀。

ラドクリフは新聞記者で多忙な夫の帰りが遅いので、その暇な時間に小説を書いていたとか。匿名で刊行されたので、彼女が超人気作家になっても、夫のほうはその「人気作家」が妻とは知らなかったとか…。

 

ラドグリフを読みながら、バークヘッドの『恐怖小説史』、

ヴァーマの『ゴシックの炎』、それに『牧神』の創刊号「特集 ゴシックロマンス 暗黒小説の系譜」などをぱらぱら拾い読みする、贅沢な時間でした。

 

じつは、昨年に書いたラフカディオ・ハーンがらみの論文のなかで、ハーンが、けっこう早い段階のゴシックロマンス小説の「研究」をしていることに触れたのでした。

 

このあたりのことは、もう「趣味」なのか「仕事」なのかが、

わけわからなくなってきた(笑)

 

でもほんとは、こういう小説って、深夜にお酒飲みながら、こっそり読んでいるのがふさわしいですよね。