痛。
体中の筋肉と関節が音を立てて痛む。顔は海底にこすりつけたせいか、すり傷だらけだ。
脇の下はウェットスーツがすれて、赤くなっている。
「だいぶ、黒くなったな。」
カイト兄ぃにはほど遠いが、顔と腕は真っ黒に、日に焼けている。
この海での生活も1週間になろうとしていた。
空と海の境界線がわからないように、現実と夢のハザマにいるような感じがする。
海での水泳はコツをつかみ、足のつかないところでも、慌てなくなった。
そんな僕の成長を見て、兄ぃが今日は成東海岸から南へ2kmほどの、作田海岸へ連れて行ってくれた。
堤防とテトラポットが伸び、砂浜は広大だ。
夏の天敵 南風をかわす、数少ないスポットらしい。
「今日は、ここで泳いでみろ。」
すっかり自信に充ち溢れた顔でうなずき、海へ飛び込む。
堤防に囲まれているせいか、波もおだやかじゃないか。いつものように、ラッコのようにして空に抱かれる。
気持ちがいい。
気付くと、、兄ぃの姿が遠くに見える。僕の方が沖にいる。砂浜がいつもよりずっと遠くに感じた。
ヤバイ。持てる力の全てで、泳いで泳いで、もがいてもがいた。
でも一向に砂浜が近くならない。
息が上がって、顔が真っ赤になっていくのがわかる。いよいよ焦って、平泳ぎかクロールなのか、わからない。がむしゃらに腕をまわした。
兄ぃっ!
言葉になっていないだろう、そしてこの広い海では届いていないだろう。
意識がモウロウとするなか、ふっと体が軽くなった。兄ぃのサーフボードにうつ伏せになったまでは覚えている。。
「海には川のような流れがあるんだよ。
カレントと言って、沖へ向かった流れのある場所がある。抵抗して逆流しようとしても無駄だ。
カレントにはまった時は、落ち着いて、弱まったと感じた時に真横に抜けろ。
いいか、運命という流れに翻弄されるのは仕方ない。逆らっても仕方ない。
でもな、流され続けるだけじゃ成長しない。今が抜け出るチャンスなんだ。」

今が抜け出るチャンスだ。
砂を握りしめ、海を強く見つめた。座ってなんかいられない、仁王立ちしたつま先も、砂を握りしめている。
僕は運命を変えてみせる。絶対に。