超、青い。
目の前に広がる空と海は、青すぎる。
自然が好きなわけではない、スポーツをしに来たわけでもない、でも来て良かった。
東京のマンションで母と弟の3人暮らし。
父とは幼い時に別れた。母は気丈に振る舞うけど、人生に疲れているようで、切ない。
弟は泣き虫でいじめられっ子だったのに、今は悪い事ばかりして、母を困らせる。
僕は、幼い頃は陽気だったらしいが、いつしか言葉を失い、時が早く流れるのを願う少年になった。
勉強をする意味がわからなくて、机に向かう事ができない。
運動をする意味がわからなくて、競争に加わる事ができない。
父は勉強も運動も大好きだったらしい。何故、僕達に教えてくれなかったんだろう。
もう僕は中3だよ、父さん。
ある夏休みの朝、
僕はありったけの小遣いを持って、家を飛び出し、地下鉄に逃げ込んだ。
地下鉄から船橋、外房線に乗り込み、父との写真の背景になっていた九十九里浜を目指したんだ。
海辺には、たくさんのパラソルが並び、家族連れの声、イケてるカップル、海の家のマジ黒いお兄さん
なんかがいる。
夏を楽しむ権利は、俺にだってある。少しいきがってもいいじゃないか。
それより、何より、この青さはヤバイ。
そして、暑い。ジーパンにTシャツ姿で来てしまったけれど、ま、いっか。
袖をまくりあげ、遊歩道に体育座りし、しばらく海を眺める事にした。
辛い日常に比べて、ぼーっと過ごす事のできるこの空間は、一気に現実を忘れさせてくれる。
もう何時間経ったかわからない、海と反対側に夕陽が沈んでいくのだけは、わかった。
ポケットの中の小銭は、棲みかに帰れない子猫のように、泣いている。
母が仕事から帰る前に、家にいないのは初めてかもしれない。ひどく悲しむかもしれない。
そう思うと急に涙があふれてきた。砂の付いた手で拭うと痛い。顔は日焼けで真っ赤だ。
「今日、波そこそこだったな。」
ごついお兄さんがサーフボードを抱えて海を振り返り、遠い目をしている。
夕暮れ時に体育座りをし、涙を流す中学生は、放っておけないらしい。
「俺、カイト。名前は?」
カナル。
運河、Canalという響きは、世界共通の単語であり、運命をはこぶという意味を持つらしい。
(運命なんて糞くらえだ。)
ほどなく、お兄さんがアルバイトをしている海の家に泊めてもらうことになった。
もちろん、母に電話をしてもらい。。座敷の遠くからでも聞こえる、母の謝る声。
ごめん 母さん、もう一日、海を見させてよ。
