- 対音楽(ALBUM+DVD)/中村一義
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中村一義、久々のソロ名義のアルバム。
傑作、100S「世界のフラワーロード」でバンド・グルーヴの高みを極めた感があったので、ここでソロに還ってきたというのは必然の流れのような気がしていた。
しかし、リリースされたのは半年以上前。なんとなく書けずにいたこのアルバムを引っ張り出したのは、ある理由からだった。
このアルバムの構成はベートーベンの交響曲と対になっている。でも、各楽曲が交響曲にインスパイアされたと言うわけではなくて、自分の中にある音楽家の「血」が不思議とベートーベンとリンクしていった、そんな感じだ。
特典のDVDでは中村本人がアルバムの詳細について、実に彼らしく語っている。
これを観てもらえば、こんなレビューは必要ない。まぁそうなんだけど、僕にもちょっとだけ言いたいことを言わせてほしい。
祖父の影響で幼少期から家ではいつもベートーベンが流れていたという中村。生活の、どの風景にもベートーベンがあったわけで、彼の表現者の魂に大きく影響していることは間違いない。しかし、それにしても重くないだろうか、ハードルが高すぎないだろうかと、実際に聴くまではかなり心配だった。
しかし、もう見事に100%中村一義のアルバム。ビートルズライクな楽曲のスケール感はさらに広がり、クラシックの荘厳さを身につけた。それでいて重々しくない。それはどこかしこに挟まれるベートーベンのフレーズがそうさせるのだろう。耳のよく馴染むメロディー、と言う点ではベートーベンは相当にポップだ。そのベートーベンのポップネスとうまく戯れている点が、このアルバムの聞き所だと思う。
そして、これまでのどのアルバムと比べても言葉がシンプルになってきたような印象を受ける。もちろん中村一義的言葉選びのセンスは健在だけど、伝えようとすることが変わってきた分わかりやすくなったように思う。
それは、自分と関わる、自分に入り込んでくる「他者」への想い。
ちゃんと生きたものに、で、ちゃんと死んだものに、
「ありがとう。」を今、言うよ。
「ありがとう。」をありがとう。この歓びを
「歓喜のうた」より
その昔、デビュー曲で「僕として僕は行く」と宣言した中村が、こんな形で歓びを表現するとは思わなかったけど、現在はそういう感謝すべきものの中に「僕」が存在しているということを、音楽の長い旅を通して知ることができたのだろう。言葉で理解することは簡単かもしれないが、肌身で知るというのはなかなかできないことだ。そういう足跡が見えるアルバムになったと思う。
さて、最初の方に触れた「ある理由」なのですが、
先日、北海道で暴風雪による残念な事故がありました。
吹雪の中で車が立ち往生し、知人の家を目指して歩き出した父娘。
しかし道を見失ってしまいます。
父親は娘に自分の上着を掛け、風から守るように覆い被さり寒さから守りました。
自分の命と引き替えに。
北国に生きる人間にとって、寒さは命に刃を突きつけてくる「恐怖」です。
そんな状況の中で、愛する者を守るために全てを抛つ。
とても痛ましい事故だけど、そんな風に行動できる人間の強さに、僕は強く揺さぶられました。
そして、このアルバムに「特別曲」として収められている「僕らにできて、したいこと」を思い出しました。
ただ、救われた私が誰かを想う。
圧倒的な力に飲み込まれても。
何かに携わること、忘れないこと、気にかけること、
ずっと想い続けること。
・・・それが私にできること。
あなたを忘れないで。
想いを忘れないで。
僕らは、空を見れば会える。
『忘れない』を忘れずに。
「僕らにできて、したいこと」より
みんな、ぜったい、あなたのことを忘れません。
(05/03/13)