Museの6作目。正直言うとMuseの新作はずっとずっと先にならないとリリースされないんじゃないかと思っていた。というのも「Resistance」が彼らのキャリアの総括的作品で、しかもアルバムごとに濃密な世界観を描き続けていたわけで、当然2番煎じのようなものは作らないだろうし、新たな方向性を見いだすのにじっくり時間をかけると思っていたからだ。3年という時間が長いかどうかは人によると思うが、とにもかくにも聴き応えのあるアルバムを届けてくれた。
ゴリゴリのギターリフと仰々しいストリングスに乗せて「目をさまし 気づくんだ、君の真なる解放 それは幻想だと」と歌われるオープナー、Supremacy。もういきなりアドレナリン全開で、ディープな世界観を見せつける。彼らのことが苦手な人には、いきなりそっぽを向かれてしまいそうであるが、ファンにとってはこれこそミューズというべき、ハイパーかつ壮大なナンバーだ。2曲目Madnessはちょっと異色のナンバー。マシューの猛り狂うギターは間奏でちょこっと登場するくらいで、ほとんどが打ち込みの渋いファンク。続くPanic Stationもまさに80年代の白人ファンクのよう。個人的にはINXSのようにも聞こえたけど。
流麗なピアノインストを挟んで、ロンドン五輪のテーマソングにもなったSurvivalへ。実にあっけらかんと「2012年のクイーン」といった感じのオペラ・ロック。野太いコーラスがややくど目に感じられてしまうんだけど、このくどさもまたMuseの魅力であることは確か。
切なさと焦燥感が爆発するFollow Me、レディヘ系的な扱いを受けていた初期のサウンドを彷彿とさせるAnimals,「僕を解き放て」と何度も連呼する雄大なミディアム・スロウ、Explorers。この辺のまとめ方は非常に手堅い。新しいことに挑戦しつつも、ミューズ・クラシックなテイストも濃く、聞き手にはどこか安心感を与えてくれるのだ。
Big Freezeでは大胆にエレクトロ・ポップに接近を見せ、また新たな側面を見せている。が、ここまで見事な展開でありながら、続くのがクリスの2曲。これが明らかに弱い。メロディーも平坦だし、なにせマシューのヴォーカリゼーションと比べたら消されてしまうそうなクリスの歌である。ラストの2曲はこれまた彼ららしい近未来風のインダストリアル・ロックと打ち込みのダンサブル・ナンバー。ラストが打ち込みというのもどうかというのがこのアルバムの2つめの疑問。
全体的には、挑戦的な部分と従来の魅力が前作よりもさらに危ういバランスの中で成立しているように思う。音楽性をダブ、エレクトロとブラックホールのように飲み込みつつ、メロディーやマシューの歌い回しなど「鉄板」的な要素を絶対に外さないという構造がかいま見える。ただ、マシューの猛りまくるギターはやや後退し、代わりにエレクトロの要素が大分取り入れられているがさほど物足りなさは感じない。どんな形であっても過剰なまでのドラマツルギーは相変わらず健在で、迷うことなく臆せず熱を発しているところは、やはり感服せざるを得ない。「あれさえなければ・・・」そういう意味では、実に「惜しい」アルバム。
★★★★(11/12/12)