曽我部恵一BAND | Surf’s-Up

Surf’s-Up

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 ソカバンの3rd。いつだって火傷しそうな想いを生真面目にロックンロールへと昇華させることに全力を注いできたソカバン。それ故に1st,2ndともにサウンドスタイルも表現も大きく変わることがなかった。変わりようがないというか、それほどの迷いの無さがシンプルで荒削りながら最高にかっこいいロックンロールを生み出してきたのだ。


 しかし、この3rdではそのスタイルに大きく様変わりを見せている。けっして迷っているわけではない。哀しみや苦しみを塗りつぶすほどのポップネスを全面に押し出すのではなく、むしろ哀しみや苦しみを焦点化し、リアルな姿を浮かび上がらせることに重きを置いている。これまでのようなハッピーなグルーヴの曲は「恋をするなら」「サマーフェスティバル」の2曲くらいで、曽我部恵一の多面的な音楽性がこれでもかと詰め込まれたアルバムになっている。サニーデイでいうと「24時」のような、とりとめもなく溢れ出てくる感じ、そんなテイストがある。

 オープニングを飾る「ソング・フォー・シェルター」から、これまでのシンプルの対局を行くような饒舌さで、曽我部恵一は思いをぶちまける。一人部屋で曲を書きながら、いろんな事に思いをはせるという曲であり、そこには混迷する社会の中でも変わらず光り続けるものが描かれている。


 「街の冬」は、おそらく札幌で起きた姉妹がそれぞれに病死・凍死した事件を材材としている。生活保護を受給できずに困窮する姉妹を知的障害の妹の視点で歌っている。でもロックンロール・マナーに乗っ取って、決して直接的な表現はしない。暖かな二人の幸せな風景を描きながら、無情にそれを奪ってしまうようなアウトロで終わる。この曲はそのアウトロに全てがある。単なる政治批判ではない。「こんなことってあるかい?」というどうしようもないやるせなさが満ちている。


 もちろん「月夜のメロディ」「兵士の歌」夜の行進」「クリムゾン」のように十八番であるメロウなナンバーもある。相変わらず良い曲を書きまくっている印象だけど、今作は不思議とメロディーの美しさが中心となっている気がしない。やはりどうしてもサウンド・言葉両面のダイレクトさに耳が行ってしまう。ラフなナンバーから、きれいなアコギのナンバーまで、スタジオで作り上げてるというよりは、今目の前でライブしているような感じ。ライブアルバムのような、スタジオアルバムだ。


 ラストを飾る「満員電車は走る」。この曲はかなり前からライブで披露されていた曲。毎日変わらず走る満員電車。そこに居合わせる人々の人生はそれぞれでも、同じ所を目指して走る。その光景は決して美しいものではないし、ある種の不条理があるけど、それでも僕には「満員電車に乗る」という行為自体が、一つのファイティングポーズの様に感じられる。人間って、やっぱり強いんじゃないだろうか。


 と、思いがあふれてくるばかりで、この文章もなかなかまとめられずにいるんだけど、その感じがちょっとこのアルバムに似ているような気がするので、このままに。

 ★★★★☆(12/07/12)