ジャック・ホワイト、初のソロアルバム。ホワイト・ストライプス解散から1年経つが、これほど実感のない解散はそうはない。全く終わった気がしないし、これで終わらせたくないとも思っている。ラカンターズなり、デッド・ウェザーなり、ジャックの表現する場所は他にもあるけれど、ホワイト・ストライプスでの彼を知っている人たちにとっては、圧倒的に物足りなく写っていなかっただろうか。
不思議なものである。ギターとドラムスというきわめてシンプルな構造から生じる制約が、逆にかき鳴らされるロックンロールの輝きを導き出していたわけだから。または、テンションと才能、そして音楽への限りない愛があれば、それで素晴らしい音楽を生み出せるのかもしれない。ホワイト・ストライプスが残してきた作品は、僕に常にそういうことを考えさせた。
リーディング・トラックとしていち早く公開されたLove Interruption。エレピやクラリネットの物憂げな調べに乗せて、I want love to・・・と何度も繰り返す、濃厚なラブソングである。メロディーがかつてないくらいにストレートにメロウで、クラシカルな魅力さえ感じさせるところに、随分と思い切った選択をしたと思った。この曲以外にも、Blunderbussでは緩やかなペダル・スチールをバックに、表情豊かなヴォーカルを聞かせる。
爆裂ロックンロールを聴きたいという欲求を満たしてくれるのはSixteen Saltines、この1曲しかない。これがまた素晴らしくかっこいい。ストライプスの過去の曲と比べても全く遜色のない破壊力を持った曲だ。ゴキゲンなギター・リフという点ではI'm Shakin'もあるが、やや軽く印象が弱い。個人的に面白いと思ったのが、Hip (Eponymous) Poor Boy。ポップなメロディーにはねるピアノ、そしてマンドリンと王道的なアメリカンサウンドなんだけど、ジャックがとても楽しそうに歌っているように感じる。
「Get Behind Me Satan」をリリースした頃から、形にとらわれない表現に取り組んできたジャック。ブルースやカントリーを音楽的素地としている点は変わりようがないわけだけど、ソロでは更に素直にアプローチしている印象を受ける。サウンドの幅を格段に広げた分、ホワイト・ストライプスにあったロックンロールの「際物的」なテイストはここにはない。代わりに風格十分のクラシカルな魅力にあふれたロック・アルバムに仕上がっている。
正直言うと、最初の頃はかなり違和感を覚えたアルバムである。しかし聴き込んでいくほどに、このクラシカルなサウンドとジャックのブルース・フィーリングの絶妙なバランスにはまっていくようになった。ギターの名手としての彼をあまり楽しめないのは残念であるし、少し洗練されすぎてる感もあるけど、ホワイト・ストライプスが終わった今も彼の中にある「本物」に拍手を送りたい。
★★★★(17/06/12)