Sonik Kicks/Paul Weller | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up  モッドファーザーことポール・ウェラーのソロ11作目。もうそんなになるんですね。しかし、ここ最近の彼にはもうモッドファーザーなんて称号は似つかわしくない。前々作「22Dreams」から、自分の中にある音楽性に対して臆面のないアプローチを見せている彼であるが、まさにこの新作ではその極みに達しているのではないか、そんな印象を受ける。


 まず、オープニングのGreenからその気合いがうかがい知れる。シンセとデジタル・ビートが飛び交う中、抽象的な詞と言うよりは、言葉を並べていく。素直に「かっこいい!」という前に、「これ、ポール・ウェラーだよな??」と頭を整理するのに精一杯になってしまう。が、最近ポール自身がクラウト・ロックに深く傾倒しているらしく、彼にとっては自然な流れなんだろうと思う。


  The Atticのあっけらかんとしたポップ・アレンジ、kling I Klangのタテノリ感など、とにかくこれまでにないテイストが次から次へと押し寄せてくる。とてもベテランのアルバムとは思えない、恐ろしいまでの攻めっぷりだ。That Dangerous Ageなんかは例えばデヴィット・ボウイだったら十分にありそうなんだけど、ポール・ウェラーがこれをどんな風にライブで歌うのかとか考えると、想像力が追いつかない。


 ノエル・ギャラガー、グレアム・コクソン、ショーン・オヘイガン(ストリングス・アレンジ)など様々な人脈を生かして作られたアルバムだが、基本的にはそのクラウト・ロック志向の影響が、あちこちで見られる。ノエルやグレアムあたりは自分の作品でも取り入れている感はあるが、ここまで大胆ではない。しかしながら、ここまでキャリアを重ねたことで逆に今は自由なことができるのかもしれない。そしてポール・ウェラー自身がパブリック・イメージを破壊しつつ、ロックに対して貪欲であり続けるってことが、きっと彼らの指針となっていくような気がする。


 よくよく聞いていくと、こういうサウンドは結構あるけど、ポールのヴォーカルやソウルの影響を感じさせるメロディーがそこに加わることによって、ダンサブルでグルーヴィーな現代のモッド・アルバムとして成立している。全てが成功しているとは思えないが、それでもポール以外の誰かが作り出せるものではない強烈な個性を宿している。


 個人的にはDrifters,Paperchase、Be Happy Childrenの流れが好き。ヘヴィーにたたみ掛けて、ラストに切なく泣かせるナンバーを忍ばせる。序盤に感じる不自然な甘さが、ここで見事に解消される感じだ。そしてボーナストラックが良い。まさにステレオタイプのポール・サウンドですが。


 ★★★☆(24/06/12)