2011 ベストアルバム(4) | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

第3位 Strange Mercy/St. Vincent




Surf’s-Up
 自分の場合、なぜだかは全くわからないけど、なぜか29,30歳くらいの人とすごくうまが合う。同世代の人間よりも、10歳近く離れた人の方がなぜに話しやすいのかはわからないけど、微妙な世代観の違いがお互いに良い刺激を与えているのかもしれないし、その新鮮さがかえって心地よいのかもしれない。あまりに若いと、もうちんぷんかんぷんだし。基本的な価値観は同じで、体験的なところで違うっていうのが、実に良い距離感を生んでいるのかもしれない。


 NY、ブルックリンを拠点とするアーティスト、St.Vincentこと、アニー・クラークも現在29歳。今作が通算3作目となる。。ポリフォニック・スプリーのメンバー、スフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活動した後、ソロ活動をスタートさせる。1st,2ndともに高い評価を得るが、アルバムごとに作風は大きく変わっている。


 今作では、ギターサウンドが全面に押し出された曲が多くを占めている。オープニングのChloe In The Afternoonは彼女の天衣無縫な歌と粘着質のギターが独特の緊張感を持ちながら絡み合っている、アルバムの始まりとしては最高にインパクトのあるナンバー。続くCruelは一転してシンプルな四つ打ちビートとキャッチーなシンセのリフが効いた優美かつポップなダンスナンバー。個人的にハイライトだと思っている3~5曲目Cheerleader、Surgeon、Northern Lights。この流れが最高だ。

 重厚なビートと雄大なメロディーラインのCheerleaderから,不穏なシンセ・リフに背筋をなでられるようなSurgeon、そして無機質なビートの中でハード・ロッキンなギターとノイズが狂ったように鳴り響くNorthern Lights。もうめちゃめちゃかっこいい。


 アルバムの後半は、彼女のヴォーカリゼーションをメインに据えた感じの曲が続く。その個性的な歌はケイト・ブッシュを想起させたりもするが、サウンドスケープ同様にエキセントリックな魅力を持っており、このアルバムでも大きな武器となっている。


 感心するのはシンセやコンピューターの使い方だ。独特のサウンドスケープを生んでいる要因となっているのは間違いないのだが、どの音も楽曲の中で自然に溶け合っている。レディオヘッドの新作もそうであったが、頭の中で流れる音楽を過不足なく忠実に再現できる力を持っていると思う。非常に洗練されているというか、知性の高さをすごく感じる。


  先鋭的な側面と、下世話にならない絶妙なさじ加減のポップネス、このバランスがアルバムの中で実に見事に取れている。先日リリースされたThe Beach BoysのSmileはその先鋭さ故に狂気の世界に足を踏み入れてしまったにもかかわらず、最終的には見事なポップ作品として世に出ることになった。でも、セント・ヴィンセントはそこをクレバーにやっていくことができるような気がする。


 彼女のアルバムはこれが初体験だが、これほどまでに刺激的かつ挑発的な作品に出会えるとは思っていなかった。最高傑作なのではないだろうか。でも、そうでないとしたらとんでもないアーティストだし、もっともっと取り上げられるべきなんじゃないかと大きく声を上げたい。


★★★★★(30/12/11)