MUSICMAN/桑田佳祐 | Surf’s-Up

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 桑田佳祐、ソロ4作目。このアルバムが完成する前に食道ガンが発覚し、全国ツアーはキャンセル、加療入院を続け、昨年末の紅白で復活を果たしたことは、まだ記憶に新しいところだと思うが、前作から9年である。ここ10年くらいはソロでの活動が多かったような気がするので、このスパンは少々意外な気がした。しかし、レコーディングにかける時間を全く惜しまない彼のことなので、本人としてはどうってことのない9年間だろう。


 DVD付きの初回限定盤には、レコーディングの詳細が記載されたブックレットが付属している。ここに全てがあるというくらいの情報量なので、詳しい話はここを読めば全て知ることができる。となると、レビューすることの意味さえあやふやになってくる。


 なので,アルバムのレビューというよりは,自分の思い入れの話,雑感と思って読んでください。


 個人的にソロアルバムで一番好きなのは1stで次が2nd。1stは高1の夏にリリースされたんだけど,少しずつUK,USインディー志向になっていく中で,ほぼ毎日聴いていたような気がする。サザン時代を含めても,おそらくこのアルバムが一番メロディーの冴えを見せていたと思う。大人のロックというか,これこそまさにTop Of The Popsな作品であった。自身による多重コーラスや今までになかったエスニックの要素など,音楽的冒険を交えた,日本のクラシック・ポップスの誕生の瞬間だったと思う。


 次の2nd,「孤独の太陽」ではサザンではあまり見せなかった,フォーク・ロックに傾倒。ディランを思わせるような歌い回し,アコギ主体のサウンド,これまた素晴らしいアルバムであったが,アルバムリリース直後に発表されたシングル「祭りのあと」という曲が,どうも苦手だった。今では全く珍しくない,ダメな男への応援歌的なものであるが,当時の僕にはすごく抵抗感があったのだ。しかし、今ではその世界に少しずつ共鳴する部分も出てきた。加齢のせいだろうか。


 3rdの「Rock'n Roll Hero」は60,70年代をベースとしたロック&ブルース。「波乗りジョニー」「白い恋人達」というミリオンセラーシングルは一切収録されず、いわゆる耳障りの良さを排した作品である。しかし、コンテンポラリー感があって、サウンドは決して時代的ではなくても詞のテーマや雰囲気が当時の閉塞感を軽やかに交わしていくような爽快感がここにはあった。


 で,今作は簡単にいうと「何でもありの桑田流チャンプルーミュージック」といったところか。曲数も含めて過去最高のバラエティを誇るが、決してセールスを無視している訳ではないのに,驚くほど自由なのである。桑田らしいスワンプ調の「現代人諸君!!」でアルバムが始まるが、同じ括りで表せる曲は一つもない。死生観を打ち込みとストリングスサウンドで歌い上げた「銀河の星屑」、「祭りのあと」をエレキ一本の弾き語りにしたような「それいけベイビー」、そして切なすぎるラストの「月光の聖者達」などなど、まさに桑田のポップネスが全開の作品となっている。


 かつての奇跡のようなメロディーラインを感じる瞬間は正直少なくなった。しかし、音楽に対するピュアな衝動は、この人の場合衰えることを知らない。幾つになっても音楽に恋い焦がれる。それって自分の理想だったりする。そして、その音楽がまっとうに評価され、多くの人々の胸を打つ。これって、とっても素敵なことだと思う。


 ★★★★(18/11/11)