J Mascisのソロアルバム。最近はダイナソーJRやソロプロジェクトの活動なのでコンスタントに作品を出しているが、純粋なソロアルバムということになると、実に15年ぶりとなる。ソロ作品も力作が多かったんだけど、今作は今までとはちょっと趣が違う。
Jの十八番である轟音ギターサウンドは、ここではほとんど姿を現さない。ほとんどがアコースティックギターのみの簡素な演奏に、枯れて捩れたJの歌声が絶妙な味わいを見せている。
ダイナソーは殺伐とした轟音ギターサウンドと儚く美しいメロディーのアンビバレンツが大きな魅力だったが、ソロ作品もそこは割と踏襲した作品が多かった。しかし今作は、本来のメロディーに思いっきり寄り添ったサウンドプロダクションとなっている。
つまりは、出来上がった楽曲に対し、素直なアプローチで曲想を表現することに務めているということになる。これが実に新鮮なのだ。荒涼とした地にすっくと立ち上がった、素晴らしいシンガーソングライターのアルバムとなっている。
Jが素晴らしいソングライターであることは、もうすでに周知の事実である。しかしながら、あのJがこんなにカントリーの香りすら漂わせるくらいフォーキーな音を鳴らすとは思いもしなかったわけで、そこに対する驚きは大きいのだけど、それを差し引いても、実に美しい曲がてんこ盛りである。そして時々静寂を切り裂くように轟くエレクトリック・ギターがたまらない。ヒリヒリとした痛みと包み込むような優しさ、そういう意味では新たな構造の「アンビバレンツ」なロックなのかもしれない。Jに対する予備知識がない人は、真っ当にシンガーソングライターのアルバムだと思って聴いて下さい。傑作。
★★★★☆(27/10/11)