山下達郎、6年ぶりの13作目。本来は昨年度リリース予定であったが、レコーディングの遅れによる延期、さらには震災によって、内容の見直しが行われ、今年の夏にやっとリリースとなった。タイトルも当初は「Woo Hoo」というものであったが、「希望という名の光」にちなんで「Ray Of Hope」に変更となった。
アルバムの構成でも「希望という名の光」がPrelude,Postludeという形で使われている。つまりはこの曲がアルバムのリードトラックだと言える。この曲がシングルとしてリリースされたのは震災の前であったが、震災後にこの曲がラジオで何度も流された。「運命に負けないで/たった一度だけの人生を/何度でも起きあがって/立ち向かえる/力を送ろう」という歌詞があるが、これ以上ないというくらいに傷つき、多くのものを失ってしまった被災者の方々に、一番響くシンプルなメッセージなのかもしれない。
山下達郎というと、完璧主義者で音楽至上主義なのではというイメージがあるが、ここまで時代性や大衆を意識した作品作りをしたことがあるのだろうか?とにかく、そういう時代感を思慮した上でもあるのだろう、スローナンバーが多く、やや落ち着いた雰囲気を持ったアルバムとなっている。
シングルやタイアップ曲が大半を占めているので、やや既聴感が強いのが残念ではあるのだが、これだけクオリティーの高い楽曲のそろったアルバムもそうはないだろう。
アルバム中の純粋な新曲は3曲。これらも全く引けを取らない出来となっている。その中でも「俺の空」でのギタープレイは聞き所の一つである。山下達郎といえばクリーンで正確なカッティングであるが、ここでは粘っこいギターソロを弾いている。
シングル・タイアップの中では個人的にNew Remixの「街物語」がいい。いかにもなアーバンシティ・ポップスといった感じだが、ファルセット気味のサビがたまらない。愛の終わりや人生の挫折があっても、この先に待っているものがある。決して逃げ出したりはしないという意志がこのサビのファルセットに凝縮されている。
また、2曲目のNever Glow Oldも最高だ。もはやおなじみとなったプロトゥルーズとシンセ中心のサウンドであるが、不思議と暖かみがあって有機的なサウンドに聞こえる。「時代という名のコスチュームを/脱ぎ捨てた心は/二度と滅びはしない」、強烈なメッセージが開放的なメロディーに乗って歌われる。
相変わらずの職人ぶりで、徹底したこだわりはアルバムのあちこちで感じることが出来る。達郎は「自分は職人だから、タイアップやドラマなどの注文があった方がありがたい」と謙遜して話すが、フックのあるメロディーラインや洗練されたサウンドの中に、自身のバックグラウンドであるオールディーズのテイストやこだわりを必ず盛り込んでいる。それはまさに、Never Glow Oldなサウンドだろう。そしてそれは、ミュージシャンのある種の理想郷なのかもしれない。
★★★★(27/10/11)