I'm With You/Red Hot Chilli Peppers | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

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 レッチリ、ついに10作目のアルバム。ジョン・フルシャンテの脱退後、初のフルアルバムということで、新人バンドのデビューアルバムのような気持ちで聴いた。

偉大な1ピースを埋めようとするのではなく、むしろそこで発生した新しい風を気持ちよく吹かせることに成功している。そこは実に正しい選択だと思う。新メンバーのジョシュ・クリングホッファーはギターだけでなく、数種類の楽器をプレイするマルチ・プレイヤーである。


 つまりは凄腕のギタリストでも、独創的なフレーズやリフを奏でる名手でもない。しかし、年齢的にも若くバランス感覚のあるプレイヤーが入ることによって、バンドのグルーヴに安定感が生まれたと思う。また、フリーのベースがとにかくいい。良い意味で角が取れたというか、すごく有機的な音になったと思う。トム・ヨークがAtoms For Peaceに彼を誘ったのは、あの音が欲しかったのだろう。すごく気持ちがわかる。何か生き物みたいなベースである。


 プロデューサーはおなじみリック・ルービン。まずはオープニングのMonarchy Of Rosesはアクセル8割くらいの軽快なロックナンバー。まずは軽い挨拶を、といったところか。2曲目Factory Of Faithはフリーのベースとアンソニーのヴォーカルの掛け合いがグルーヴィーに展開する1曲。続くBrendan's Death Songは、友人の死について歌った骨太なナンバー。 


 4曲目Ethiopiaはまたフリーの粘っこいプレイが楽しめる。次のAnnie Wants A Babyはメランコリックなメロディーとジョシュの控えめなギター・プレイが絡みを見せる。個人的には6曲目Look AroundとシングルThe Adventures Of Rain Dance Maggieがハイライトだと思う。aアルバム中最もキャッチーかつアグレッシブな瞬間だ。 


 アルバムの後半は、Did I Let You Know、Goodbye Hoorayなどリズムに変化のあるナンバーが並ぶ。軽快なピアノのイントロで始まるHappiness Loves Companyはアルバムの中で、ちょっとした箸休めのようにも聞こえる。


 終盤になるとPolice Station、Even You Brutus?、Meet Me At The Cornerとどこかもの悲しさを湛えたスローナンバーが続く。この辺はいささか渋すぎる感があるが、ラストは祝祭的なDance, Dance, Danceで終わる。


 確かに、まとまりよく落ち着いた印象は否めず、凄みを求めていた人にとっては明らかに物足りないだろう。しかしながら、単純にロックアルバムとしては、非常に優れた作品だと思う。メロディーもよく練られているし、リズムや曲調もバラエティーに富んでいる。「ジョンの不在」という現状に対して、各々のプレイヤーが下を向くことなく音を鳴らすだけで、これだけのものができてしまうのだ。こういうのを「スーパーバンド」と呼ぶのかもしれない。


★★★★☆(26/10/11)