マンチェスター出身の2人組、Hurtsのデビューアルバム。ついつい「マンチェスター」という言葉に反応してしまう自分だが、この2人組はある意味実にマンチェらしくない雰囲気を持っている。
まずビジュアル。ジャケットを見れば分かるように、とっても綺麗なお顔立ち。髪型もきっちり整えられ、一人はスーツ、一人はサスペンダー。中ジャケでは、スーツにカシミアっぽいマフラーを巻いている(ちょっとやりすぎ・・・)。しかしこのモノクロのジャケットは、事前情報がなければ2010年のものだとは思わないんじゃないだろうか。サイズもLPのほうが似合いそうだ。
そして肝心の音だが、これが見事なまでのシンセサウンド。デペッシュ・モードやTears For Fearsなんかが引き合いに出されるが、僕はまずOMDやHuman Leagueあたりが頭に浮かんだ。でも間違いなく根底にあるのは後期Roxy Music。アートワークも含め、あのスタイリッシュさ、美学を引き継ごうという意志が感じられる。
そして、80'sの香りを強く漂わせるキャッチーさがHurtsの特徴だろう。どの曲もとにかく良くできている。オリジネイターというよりも、自分が愛してきたものへのリスペクトが強く感じられる。ややダークで耽美的なテイストを漂わせつつ、中毒性の強い流麗でドラマティックなメロディーライン。直球という表現を自分は好んで使うけど、これはまさに直球中の直球。
ただ、コースはストライクゾーンを広く使っている。1曲目Silver Linning(個人的に結局これが一番好き)は背徳的なイメージを喚起するようなダークなサウンド。続くWonderful LifeはBryan FerryのDon't Stop The Danceが浮かんでくるような、スタイリッシュだけどデカダンな雰囲気を持っている。
またBlood,Tears&Gold、Stay、Unspokenのようにスケールの大きい熱情的な曲やIllminatedのように哀愁を漂わせるような曲もある。そして、Better Than Loveのようにベタベタな感じ(シャレではありませんよ。本当なんです)まで、とにかくシンセポップのおいしいところを知り尽くしているようなところがある。ラストのThe Waterの息をのむような美しさもまさに計算通りという感じで、新人でありながらこの隙の無さ。頭が下がる思いだ。
あまりの完璧さが少々鼻につかないわけではないが、個人的にはとってもツボなテイスト。時々80'sを聴きたくなるのは、あの頃の下世話なまでのキャッチーさが懐かしくなるからで、小学生の頃出会っていたら、絶対虜になっていたと思う。部屋の天井にポスター貼る勢いで。
★★★★(23/11/10)