Serotonin/Mystery Jets | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

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 ミステリー・ジェッツの3rd。今回Rough Tradeに移籍してのリリースとなった。ミスジェというと、そのデビューは自分にとってはかなり衝撃的だった。当時はテムズ・ビートというムーブメントがあって、彼らもその片翼を担う存在であったが、ビートルズ的メロディーに雑種性グルーヴを結合させたようなインパクトの強い音楽をやっていた。


 しかし、2ndでは一転して80'sのエッセンスを大胆に投入し、かなり開けっぴろげなポップへとシフトしていった。メロディーセンスは健在なものの、雰囲気がだいぶ変わってしまい、個人的にはそこが残念であった。ただ、作品自体は高い評価を受け、NMEの年間ベストアルバムの8位に選出された。


 で、今作であるが、プロデューサーにあのクリス・トーマスを迎え、前作でのシフトチェンジを更に推し進めたものになっている。オープニングのAlice Springでは壮大なメロディーと疾走感溢れるグルーヴを見せ、最初は「おっ?」と思ったのだが、続くIt's Too Late To Talkの思わず脱力してしまいそうなシンセのイントロ、まさしく「The 80's」って感じで、そこからはめくるめくポップ・ワールドが展開している。


 でも、単なる陽性のポップではなくて、明るいトーンの音を使って陰影を描いているような感じ。前述のIt's Too Late To Talkも儚い思いを祈るように歌っているし、Waiting On A Miracleでは奇跡を待っている女の子を側で観ているだけの男の子のやるせなさを熱情的なメロディーに乗せて歌っている。そういったことからも、前作のフロア寄りな感じから、より感情を表現しようということを意図しているように見える。だから、すごく「人間くささ」を感じるアルバムだと思う。


 アルバムの流れもまたかなり意図的というか、例えば、ゴージャス且つダンサブルなSerotonin,Show Me The Lightと繋いで、伸びやかで清涼感あふれるDreaming Of Another Worldに持って行くという、極めてわかりやすくしているような狙いを感じる。そしてラストを飾るのはアルバムの中でも一番重く、スケールの大きいLorna Doone。享楽だけで終わらせず、その先に夢だとか苦い現実があるということを流れでもって表現している。


 正直、革新性や個性という点では薄れてきている印象は拭えないが、「体幹」自体は間違いなくビルドアップしてきている。そういう意味では、彼らの「地力」を感じることの出来るアルバムだと思う。


おすすめ度★★★★(18/07/10)