Real Estate/Real Estate | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
 Real Estate、2009年にリリースされた1stアルバム。ピッチフォークでは年間チャートの20位にランクされた。「不動産」という身も蓋もないようなバンド名であるが、これはメンバーの家族が不動産業を営んでいたり、メンバー自身が不動産の勉強をしていたりしてたことが由来となっている。


 では、サウンドも固いのかと言われれば、そんなことはない。柔らかな木漏れ日が降り注ぐような、ソフト・サイケデリア。初めて聴いたときの感想はそのようなものであった。



 ちょっとサーフ系のギターにシンプルなベース、ドラム、ほどよく力が抜けたヴォーカルという、さほど珍しくない構成だが、このバンドとても魅力的な音を放っている。70年代辺りのソフトなエッセンスを加えながら、軽妙で、甘酸っぱく、心地よいオールドウェイヴなギターサウンドは、白昼夢的なグルーヴを形成している。


 各楽曲ともとても柔らかなメロディーを持っているが、不思議と親しみやすさは感じなくて、「この世」ではないどこかでなっているような幽玄的な雰囲気を持っている。Grizzly Bearとまではいかないが、手に出来そうでするりと逃げてしまうような、不確実な存在のよう。


 ただ、単純に音だけ聞けば「夏」にぴったりって感じのゆるサーフ・ロックって感じかもしれない。でも、このバンド詞がすごくいい。例えば、2曲目Pool Swimmersはこうだ。


 「隣の家の庭をそっと踏みしめる/打ち上げ花火と名刺の燃えカス/誰かが黄金の掟を忘れた/ほかのスイミング・プールを探しに行こう」


 こんな風に、自分たちの成長、時代の変化によって失われていくものを象徴的な言葉で描いている。そしてそこにあのノスタルジックなメロディーとサウンドが折り重ねられる。ラフなテイストを残しながらも、それ以上手を加えなくて良いような絶妙なバランスを保っている。ちなみにインタビューでは、彼らメロディーやサウンド重視のようで、詞は曲に合わせて書いているだけなんだそうだ。それにしては、「郊外の犬は雨が降ると怯える/郊外の犬はのろのろと動く電車に吠える/君の家から逃げ出して、次の日には帰ってくるのさ/郊外の犬は、自分の鎖を愛してる」なんて鋭い歌詞を埋め合わせで書けるのだろうか。


 おすすめ度★★★★☆(17/07/10)