時空の彼方へ~Further/The Chemical Brothers | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
 デビューしてからもう18年も経つんですね。The Chemical Brothers、通算7作目。先日レビューしたTFCと同様に前作、前々作がもう一つ自分にとってピンと来なかった彼ら。エレクトロ、ダンス、レイヴ・・・といった要素より、普通に彼らにロックバンド的なカタルシスを求めてしまう自分なので、揺さぶられるような衝撃がどうも薄まってきたように感じていた。


 予定調和に陥ることなく、実験を繰り返しながらパイオニアとしての威厳を失うことなく歩んできた彼ら。近作も完成度が高いことは分かるのだが、自分が求めるケミブラ像と微妙にずれていて、そのたびに自分っていわゆる「悪しきファン」なんだなってことを痛感したものである。


 しかし、3年ぶりとなるこの新作、久しぶりに掛け値なしに「いい」と思えるアルバムである。彼らの十八番であるビッグ・ビートが華々しく復活したというわけではない。その時々の旬な人材を迎え入れたコラボレイトも彼らのアルバムでは当たり前であるが、それが今作では皆無だ。なのに、「これぞケミブラ」と思わずにいられない快作となっている。


 全曲まるごとライブで演奏することをモチーフにして作られたという今作。その通りにアルバムの流れが実に見事である。シームレスどころか全曲合わせて実は1曲なのでは?というくらいに整然としている。無線信号のような機械音から始まるSnowは過剰に盛り上げるのではなくて、これから始まる物語の冒頭を静かに語る。続くEscape Velocityは12分近い大作。延々と続くシンセのリフと抑揚するビートが心地よい陶酔感を与えてくれる。


シンセとノイズがシャワーのように放たれるAnother Worldを挟み、いよいよ今作で最高のビッグ・ビートを聴かせてくれるDissolveへ。


 そして嘶き蹄を立てながら荒くれるチューンHorse Powerへと傾れ込み、オリエンタルで享楽的なキラーリフが彩るリードトラック、Swoonへ。シンプルなビートから今流行のサーフテイスト・ポップへと展開していくK+D+B、そしてラストWonders Of The Deepで再びウォール・オブ・シンセサウンドの海の中を揺るやかに堕ちていくように終わりを迎える。


 まず全部を通しての感想は、とにかく「濃密」で「生々しい」。先の通り、今作はコラボ曲が入っていない。彼らにとってコラボは一つの武器であったが、あえてそれを捨てたことによって、自分たちの持っているものを全て放出することが出来たのではないかと推測する。とにかく自分たちの音作りに集中した結果、一音一音が有機的に結びついた、生きたロックアルバムが生まれたのではないかと思う。何かしらの「制約」は、思わぬ恩恵をもたらすことが多い。


 ちなみに自分が買ったのは全曲入りのDVDがついたリミテッド・エディション。最近やたらとついてくるDVDに、個人的には「余計だな」と思うことが多いのだが、今回は「当たり」。映像演出が彼らのライブには欠かせないが、このDVDによって、更なる楽しみ方が出来ると思う。部屋を暗くして大画面で見るととても気持ち良くなります。さすがに大音量では聴けないですが・・・


おすすめ度★★★★(10/07/10)