グラスゴーの良心、Teenage Fanclub。約5年ぶりとなる新作である。Baby Leeがダウンロードで試聴可能になったから、ずっと待ち望んでいた新作である。それはもう好きな子とのデートの日を指折り数えて待つような、そんな思いで待っていました。そして、こうしてTeenage Fanclubのレビューが書けるという事実があるだけで、うれしい。僕にとって彼らはそういう存在。
人生の名盤を挙げよ!と言われたら、早い段階で浮かんでくるのが彼らの「Grandprix」と「Songs From Northern Britain」。前者はストレートかつアグレッシヴ、後者はソフトかつメロウなスタイルであるが共にギターロックの歴史的名盤であると思っている。
で、新作であるが、往年の傑作「Song From Northern Britain」を思わせる、柔らかなテイストのギターロック。これまでと同様にノーマン、ジェラルド、レイモンドの3人が4曲ずつ作曲している。3人が揃って優れたソングライターであることがTFCの強みであるが、3人とも今回はシンプルな「うた」を意識したソングライティングに終始している。アルバムのミックス自体は2009年の前半には終わっていたらしい(実際僕はサマソニでその新曲群を聴いている)。それから手をかけたのか、ただ放っておいたのか謎であるが、とにかく丁寧に丹誠込めて作られた職人技のさえた一品である。
オープニング、Sometimes I Don't Need To Believe In Anythingはジェラルド作の前作の流れを少し汲んだような、ソリッドさの残ったナンバー。アルバムの中ではやや異質なテイストを持っているが、後半のハーモニーとメロディーの広がりがシンフォニックにも聞こえる。そして続くBaby Leeは、ノーマン作の必殺度の高いとろけるような大名曲。これは聴いたら恋したくなるでしょう。詞も思いっきりストレートなラブソング。前作にはこういうわかりやすいメロディーがなく物足りなさを感じたので、この1曲だけでかなり満たされるものがある。そして、The Fallはタイトかつアコギとハーモニーが心地よいレイモンド作の曲。
個人的に好きなのは上記以外では、雨の日に窓辺で聴くのが似合いそうなメランコリアなDark Clouds、エレキが久しぶりに効いているShock And Awe、バーズ直系の軽快なハーモニーロック、When I Still Have Thee、やや骨っぽくてアーシーなラスト曲Today never Endsなどなど・・・
と、こんな感じでシンプルなサウンドながら、メロディーがじんわりと広がりを見せる素晴らしい曲が並んでいる。全部紹介しきれないのがとても残念であるが、アコースティックな響きによく合う流麗なメロディーが最後までとぎれることなく続いている。流行がどうだとか、そんなこととは全く無縁のタイムレス・ミュージック。そして、どの曲にもちょっとしたアレンジの小技が効いている、職人ならではの作品。確かな腕を持ち、自分に技量を高めながら、一切の妥協をしない。そういう姿勢が曲から伝わってくる。最近ではそういうものに簡単にはお目にかかれない。
ただ、あまりの野心の無さが、物足りなく映る人たちもいると思う。冒険心もさほどない。でも、普遍的なものを、揺るがぬ信念で追求し続けるって、この時代においてとてつもなくすごいことなんじゃないかって思う。そういう意味ではとてつもない凄みを持ったアルバムだと思う。
おすすめ度★★★★★(04/07/10)