ゴーゴル・ボルデロ、メジャー移籍第一弾アルバム。ウクライナ出身のユージン・ハッツを中心とする9人組のバンド。それぞれが違う国籍を持つ。フジロックやサマソニにも出演経験があるが、とにかくこのバンド、ライヴ・パフォーマンスの評判が高い。
この新作は彼らにとって5作目となるが、リック・ルービンが彼らに惚れ込み、プロデュースを買って出たということだ。最初はポーグスのように与太者的ロック・グルーヴを期待したのだが、どちらかというとマノ・ネグラを彷彿とさせる。マノ・ネグラはフランスのロック・バンドであるが、ジプシー・ミュージックとパンキッシュなテイストを前面に押し出した、パワーのあるバンドだった。ゴーゴル・ボルデロの場合、もっと多国籍の音楽の影響が伺えるが、基本姿勢はパンクテイストに溢れている。歌詞の内容も八方塞がりで窒息しそうな状況を描いていたり、民族問題による所在の無さ、怒りややるせなさを歌っている。
個人的にはImmigraniada(We Comin' Rougher)のようなストレートなパンクタイプの曲が好きであるが、どの曲も郷愁感のあるウェットなメロディーなので、とても印象に残る。かつてアイリッシュ・トラッドに傾倒していた時期があったので元々こういうタイプは好きなのだが、最近のこの手のバンドは妙にきれいにまとまっている感があった。しかし、彼らはそういった中では明らかに頭一つリードしているように見える。
それはきっと、彼らが自分の音楽を当たり前にやろうとしているところにあるんじゃないかと思う。何も狙うことなく、これこそが自分たちの音なんだという確信を持ってやっている。自分たちの音楽を比べることもしないだろう。
場末の酒場に充満しているような無鉄砲な力と漂う哀愁が渾然一体となって彼ら独特の世界を形成している。このジャンルには欠かせないバイオリンやアコーディオンが縦横無尽に行き交う、粗暴かつ豪奢なグルーヴがとても魅力的だ。それでいて、どこか優しく暖かなものを内包しているような、ある種の「おおらかさ」も持っている。拒むのではなくて、全てを受け入れながら、血を流しながら旅を続けていく。このアルバムは彼らのそんな旅の手帳なのかもしれない。
おすすめ度★★★★(22/05/10)