アッシュ通算6枚目の「アルバム」。しかし、この「アルバム」、既成概念で「アルバム」ととらえるのはどうかと思う。
アッシュは「アルバムを作り、ツアーに出る」というアーティストとしてのルーティーンワークに嫌気が差したようで、「しばらくはオリジナルアルバムを作らない」とアナウンスしている。しかしそれは「活動休止」ということではなく、自分たちのスタンスで自由に音楽活動を行いたいという意志がそうさせたのだ。
その結果、彼らはまず自らのスタジオを作り、自分たちのレーベルを立ち上げた。全てが自分たちの意志で動くことの出来る体制を作り上げた。そして彼らが次に手がけたプロジェクトがThe A-Z Seriesだ。1年間にわたって、2週間ごとアルファベット順に新曲をリリースしていくというもの。販売形式はダウンロードと限定7インチのみ。
つまり、この「A-Z Vol.1」はその前半となる13曲とボーナストラックを収めた「シングル集」なのだ。なので、「アルバム」と考えるのはどうかと思う。じゃあ「ベスト盤」なのかと言われてもまた違うような気がする。結局狙いにあるのは「アルバム」という単位で考えると、良い曲でもアルバム内容にそぐわなくてボツになってしまう場合があるから、そういうことを考えずに良い曲をガンガン世に出したいということのようだ。
肝心の内容であるが、全曲シングルということだけあって、完成度は高い。メロディーは若干使い回されたような感もあったりするのだが、強烈なフックは健在。印象的なリフ作りも冴えていて、明らかに「シングル」的な作りがどの曲からもかいま見られる。
New Order的刹那系シンセとギターロックの融合True Love 1980(タイトルからしてモロですね)、疾走感溢れるArcadia、これぞアッシュなセンチメンタル炸裂のPripyat(Pripyatとはチェルノブイリ原発事故でゴーストタウンと化した街。このPVは心打たれる)など全体的には、想定内のバラエティー感。もっと思い切っても良かったんじゃないかと思うが、最終的にはどの曲も「アッシュだね」って納得できるものになっている。そして、「シングル集」だけあってやはり「アルバム」というフォーマットがもたらすトータル感や流れの抑揚みたいなものは欠けている。だから「アルバム」として聴いてしまうと圧倒的に物足りない。ここは、きっちり割り切って聴くべきだろう。
一番好きなのは、Dionysian Urge。ギター弾きまくりの真っ当なギターロックであるが、結局こういうシンプルな曲が自分には一番しっくり来る。例えばボーナスディスクにはTrue Love 1980のアコースティック・ヴァージョンが収録されているけど、そっちの方がずっと好きだったりする。
個人的には、思い切って13枚、シングルボックスでリリースしたらおもしろかったんじゃないかと思う。1曲聴くたびに、また新しくセットして・・・ってめんどくさいかもしれませんが、ボックスセットにある次々と聴いていくワクワク感がいいんじゃないかと。
(24/04/10)