かつてファイナル・ファンタジー名義でアルバムを2枚発表しているオーウェン・パレットの3作目のアルバム。FFの世界観を深く愛し、自分の音楽でそれを再現できないものかというスピリットで取り組んできたプロジェクトを諸処の問題で今回からは本人名義でアルバムをリリースすることになった。
元々ヴァイオリン奏者のオーウェンであるが、様々なバンドのサポートとして活躍し、アーケード・ファイアの「フューネラル」における仕事で大きな注目を集めることになった。彼のソロのスタイルは、自分が弾いたヴァイオリンをループさせてそれに合わせて歌うというもの。これがなかなかすごいので、興味のある人は是非映像を見て欲しい。
で、名前は本名になっても、このアルバム実はFFに共通するディティールがしっかり存在する。架空の世界スペクトラムで暮らす若き凶暴な農夫ルイスをモチーフにした物語が展開されている。ただ、この物語に明確なストーリーはなく、詞や音像から聴き手のそれぞれがストーリーを進めていくだろう。そういうところから言っても、このアルバムまさに「RPGアルバム」なのだ。
基本線はクラシックのシンフォニックな響きにエレクトロなどを絡めながらポップで幽玄的な世界を描くというもの。高揚感溢れるポップ・シンフォニーLewis Takes Off His Shirt、不穏なワルツE Is For Estrangedなど弦楽器の美しい響きに相性の良いメロディーや歌をのせたものもあれば、ミニマルなTryst With Mephistophelesなどループの中でクラシックの要素を馴染ませたような曲もある。クラシカルな要素が多いものの、メロディーラインがポップミュージックに近いせいか、独特の味わいがある。
中世のおとぎ話のような、甘美性と残酷性を内包した世界観を実に鮮明に表現している点は実に素晴らしいと思う。ただ、Sigur Rosのように聴くもの全てを彼方へ連れ去ってしまうような圧倒的なエネルギーは感じられない。自分自身にRPGゲームをする習慣がないからだろうか。これは好みの問題かもしれないが、物語を進めていく「推進力」がもう少し感じられたら、と思う。
おすすめ度★★★★(19/02/10)