The Flaming Lips3年ぶりの新作。日本では1枚ものとしてリリースされているが、本来は2枚組。18曲という大作である。「The Soft Bulletin」以降、サイケでメロウなフレミング・リップスというイメージが定着した感があるが、今回のアルバムでは彼ら本来の前衛的な姿勢が再び現れている。
曲名に星座名がしばし現れるように、宇宙をモチーフにしていることは明らかだが、宇宙そのものを取り上げているというよりも、宇宙的レベルの生命力、それらの営みをテーマにしているように見受けられる。
昨年、「Christmas On Mars」という映画とサントラを制作した彼らであるが、その影響を強く感じる。映画は命をテーマにしたものだったが、まさにこのアルバムも似通ったところがある。ただ、より自由になっているというか深く深く生命観を追求したような作品だ。
甘くメロウな世界をいったん離れ、ここでは重厚なビート、不協和音として正しく機能するノイズなどを基調としながらゴツゴツとしたテイストのサイケを中心に鳴っている。かつての前衛的なエッジを取り戻したというか、フリーキーな実験性を前面に出した感がある。決してメロディーがないわけではない。ただ、これまでのようにリップス流のシュガーコーティング、祝祭的なアレンジは皆無と言っていいだろう。
前作の名残を感じさせる曲もあるが、The Sparrow Looks Up At The MachineやシングルにもなったSilver Trembling Handsなどで聴けるざっくりとしたメロディーの方が今回のフォーマットにはよく合っているように思う。
Aquarius Sabotageのようにアヴァンギャルドな展開を見せる曲やMGMTが参加したWorm Mountainのように「より暴力的なPink Floyd」のような曲もありアルバムの中の「自由度」はかなり高い。しかし、全体的には統一されたトーンに覆われていて、どの曲からも頭に浮かぶのはざらついた音像である。クリアになりそうでならない感じ。おそらく焦点を与えるのは聴き手の創造力にゆだねているのだろう。そういうところはなんだかウェインの「してやったり」な顔が浮かんできそうだが。
個人的にはThe Ego's Last Standがベストナンバー。あのツェッペリンにも類似したタイトルの名曲があったが、
次のI Can Be A Frog(これが一番前作までのリップスを感じさせるナンバーだと思う)につながる感じも含めてかっこいい。
いろいろ名称を考えてみたが、「サイケデリック・コズミック・ガレージ」なんてのはどうだろう。甘さはなくても、このラジカルさにかなうものはない。これはこれで間違いなく美しい。
おすすめ度★★★★☆(31/10/09)