すでに本国では大きな注目を集めているThe Big Pinkの1st。4ADからのリリースであるが、4ADと言うと古くはバウハウスやコクトー・ツインズ、自分に馴染みがあるのはPixiesやThe Theといった一癖も二癖もあるギターバンド、またはPale SaintsやLushといったシューゲイザーバンドである。
そのようにレーベル色が強いのが4ADであるが、The Big Pinkの作り出すサウンドももまさに前述のバンドたちを想起させるようなものだ。2人組であるが、互いが楽器にとらわれずいろんな音を出しながら作り上げるようなスタイルを取っているらしい。
一聴して耳につくのはフィードバックノイズの波、ややけだるいヴォーカル、キャッチーで甘美な歌メロである。そう、つまりはジザメリを彷彿とさせる構図である。かなりドラッギー。しかしながら、実際はジザメリのようには聴こえない。ジザメリも実質リード兄弟のユニットであるが、まだバンドサウンドとしての欠片をちりばめていたのに対してThe Big pinkにはそういう要素が皆無といって等しい。なんというか、ソロ・アーティストが一人で全てを完成させてしまったような音なのだ。
そのせいなのか、80's~90'sのUKシューゲイザーバンドがギターノイズに肉体性を持たせ、グルーヴとも音の波ともつかない非日常的な音空間を作り上げていたのに比べると、彼らの場合は無機質でやや金属的な感じがする。でも、冷たいというのとはちょっと違って、エモーショナルに放っているような部分も実はきっちりと計算されているんじゃないかという印象を持つ音である。
与太者グルーヴとシンガロングなメロディーを持ったアンセムDominos、メランコリックなLove In Vain、Velvet、ケミブラ+クーラー・シェイカーみたいなToo Young To Loveと引き出しが多い分、重厚なサウンドでありながら、しつこさを感じさせない。そして、Tonightのような思いっきりエレポップな曲が入っていたりするところに少し余裕も感じられる。自分たちのバックボーンに忠実に従い、それらと比肩するようなクオリティーの曲をいくつも並べていくことで、逆にThe Big Pinkの実態をつかませないような、確信犯的な所も感じられるアルバムである。
個人的な希望を言えば、今後は少しフォーカスを絞ったアルバム作りをしてもらえると、もっと突き抜けたものができあがると思う。方向性によってはもっともっと鮮やかな狂気を描けると思うのだ。単発に見せていくのではなく、作品全体で一つの世界を描ききってしまうようなアルバムを作って欲しいし、それだけの力はあるだろう。
おすすめ度★★★★(25/10/09)