The Cribs通算4作目のアルバム。英ウェイクフィールド出身のジャーマン3兄弟のバンドである。もう知っている方がほとんどだと思うが、あのJohnny Marrを新メンバーに迎えるという、誰もが予想し得なかった状況下で制作されたアルバムである。
スミスから、ザ・ザ、モデスト・マウスなど一癖も二癖もあるフロントマンのいるバンドを渡り歩いてきたギター職人であり、あのノエル・ギャラガーが最高のギタリストの一人として賞賛するなど、ミュージシャンからも多くのリスペクトを受けているジョニー・マー。彼が次に選んだのが、親子ほど年の離れて、血のつながりという強大なユニティを持ったバンドだというのだからおもしろい。こういっては何だが、普通はこういう濃い繋がりの中に入っていくのは非常に難しいことなのではないだろうか。
しかしながら、ジョニーは「みんなすごくいい奴らなんだ」と全く意に介する様子もない。そんな陳腐な心配などもろともしないものを感じたのだろう。そして、今作の内容も、久しぶりに「ジョニー・マーだなぁ」という明快なギターロック・アルバムとなっている。
ソリッドで直情的なギターサウンド。IdlewildやNine Black Alps,Manic Street Preachersあたりが好きな人はかなりツボな音だろう。We Were Aborted,Cheat On Me,Nothingのようにワイルドで荒々しいものから、Last Years Snow,Save Your Secretsのようにメランコリックで美しいものまで多彩な楽曲が納められている。メロディーもシンガロング系が多く、このサウンドに良くはまる。ゲイリーとライアンの双子のヴォーカルもユニゾンからハーモニーまで実に伸びやかで、アルバムに風通しの良さをもたらしている。
特典のDVDには、アルバム制作のドキュメンタリー映像が収録されているのだが、これが実に興味深い。マーが今作の中でどのようなケミストリーを起こしたかがわかる。映像の中で、所有しているたくさんのギターを紹介していくのだが、そこで語られる言葉一つ一つに重みがある。歴史がある。曲を形にしていく中で、自分の豊富な経験やアイディアを的確に伝えていくマー。どんなスタイルの楽曲でも浮つかず、バンドのグルーヴ感がここまで落ち着いているのは、明らかにジョニーのおかげであると思う。
やや一本調子に聞こえてしまうところもあるが、2009年にここまで瑞々しいギターロックをシーンの中心で鳴らすことのできるバンドはなかなかいない。ジョニーの話にばかりなってしまったが、ジャーマン兄弟のポテンシャルをギターロックという理想的な形で引き出した功労者であることは間違いないだろう。
おすすめ度★★★★(10/09/09)