世界のフラワーロード/100S | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up 「いつかはみんな通り過ぎた 街から街へ行く」


100sの3rdアルバム。前作まではバンドサウンドの成熟、これこそが100Sの進化であると思ってきたが、この新作ではその考えが見事に覆された。


サウンドスタイルの面で大きく変わったところはない。風通しの良いグルーヴィーなロックナンバーから、壮大なスローナンバーまでまさに「中村ワールド」ともいうべき世界観をポップに体現している。他メンバーによる楽曲もあり、「いぬのきもち」は小野眞一の曲、「ミス・ピーチ!」は池ちゃんらしいスイートファンキーソウル。当たり前のようにどの曲も完成度が高く、個人的には一番好きな「ERA」に匹敵するレベルだと思う。


 今までは100S自身のプロデュースということになっていたが、今作では、中村一義のプロデュース、共同プロデューサーとして池ちゃんがクレジットされている。この辺の背景はわからないが、一つ感じるのはこのアルバムの持つテイストが、以前のソロ名義のもの、もっと限定してしまうと金字塔からERAまでに近いということである。


 「犬と猫」で衝撃のデビューを飾ってから、中村一義が表現しようとしてきたものはストイックなまでに突き詰めた「個」の心象風景だと思う。誰にでもある美しい瞬間をピュアに表現することができたからこそ、中村一義の音楽は半端無い輝きを見せていた。これはなかなかできることではない。恐ろしいまでにピュアであることと、音楽的才能が両立しない限りそのようなことは無理だろう。


 その表現が人によっては閉塞感や、疎外感を感じさせることもあっただろう。100Sとなってからは「個」の集合の中で、また新たな心象風景を探し始めることで、そういったものを打開しようとしたようにも見える。


 しかし、この新作では改めて「個」を見つめ直したようなところが随所で見られる。「魔法を信じ続けているかい?」では自分の全てのキャリアを総括するようにこれまでのアルバム名を歌詞にちりばめながら、「時代によって変わりゆく意味ん中に、自分を信じ続ける意味」と歌うのである。そしてとどめは「同情の群れは とうにねぇ、いねぇ、いねぇ、いねぇ」というフレーズである。


 流れていく風景や人、出来事は全てが一瞬で過去へと変わる。そこにあり続けるものは何か?


 かつて中村一義は「永遠なるもの」という曲を作った。再びその視点に戻ってきたような、強烈な「個」をこのアルバムからは感じる。バンドサウンドの成熟というよりは、「個」の強さを表現する音楽を。もしそういう意図で作られたとしたら、それはすごく正しい選択であると思う。


 「こんにちは」と「さようなら」、最後まで出会いと別れを繰り返す16曲。人との出会い、生を受ける、この街を離れる、この世とオサラバする。そこにある自分は、いつだって「自分」。そんな自分でいる覚悟を決めなきゃいかんなぁ、とこのアルバムを聴くたびに、「そりゃそうだ」での(特典DVD)チャドの路上の軽やかなダンスを見るたびに思う。


おすすめ度★★★★★(19/07/09)