本国でマーキュリー・プライズ、ブリット・アワードを受賞したElbowの4th。これまでも作品を発表するたびに高い評価を受けてきたが、今作でその評価は頂点に達したのではないだろうか。と、本国ではそういう状況でありながら日本では無名に近い存在。普段、そんなことは全く気にしない僕であるが、日本盤が1年以上発売されなかったという事実はとうてい許し難い。いろいろと事情はあるのだろうが、もっとどうにかならないものか。
で、肝心の今作であるが、今こういうロックをやっているバンドは意外と少ないのではないだろうか。ミドル~スローを中心とした、叙情性が豊かで陰影のあるロック。非常に甘美なところを持ちながらも、過度にメロディアスにならない楽曲が並ぶ。そこに重なるのがロマンチシズムあふれるヴォーカリゼーション。マンチェスターのバンドであるが、ここまで耽美的なサウンドを奏でるのは同郷のバンドの中では珍しい方だろう。強いて言えばDovesあたりが近いか。
個人的に好きなのが2曲目The Bones Of You。最近ではあまりお目にかかれない正統派ギターロックに男気漂う厚めのコーラスが良い具合にはまっている。また、1stシングルにもなったGrounds For Divorceは力強いサウンド、どっしりとしたビートの効いた曲。One Day Like ThisはEmbraceばりの合唱系で、このアルバムの中では少々濃い感じであるが、歌詞が泣ける。
特に目新しいことをしようという意図が感じられないアルバムではある。しかし、このアルバムの素晴らしいところはしっかりと「光と陰」を描いていると言うことである。陰があっての光であり、光があっての陰。最近のロック作品にはどちらかに目を向けて、どちらかに目をつぶるという取捨選択がしばしなされるが、このアルバムはその両面をサウンドで再現することに成功している。
また、そこに気負いも背伸びも感じられないのがすごい。自己顕示欲さえ感じない。そこが好みが分かれるところかもしれないが、そういうエゴがないロックサウンドも僕は好きである。盤石の体制ゆえにスリルを欠くところはあるが、実に味わい深いアルバムである。何度も聴くことをおすすめしたいアルバムだ。
おすすめ度★★★★(17/06/09)