「作りたかったのは『聴く』音楽ではなくて、『体感』できる音楽だった」by ノエル・ギャラガー
Oasis7枚目のアルバム。ノエル、リアム、ゲム、アンディの体制になってからは3枚目になる。冒頭の言葉通り、ここでオアシスはこれまでの武器であった「シンガロングできるメロディー」を多くの曲で捨てている。かわりにあるのはバラエティーに富んだ楽曲。基本的な線としてサイケデリックな色合いがどの曲にもあるのだけれど、前作よりも各曲色の濃さが深まってきているように思う。
オープニングの「Bag It Up」は重々しいビートとギターリフ、さらに重々しいリアムのヴォーカル。いきなりけんか腰と言うよりは、これからアルバムを聴くに当たって聴き手に「覚悟しやがれ」という警告にすら聞こえてしまう。「The Turning」はピアノやオルガンでスリリングさを引き出した佳曲。最後はディア・プルーデンスですね。「Waiting For The Rapture」は、ブルージーなギターとノエルのヴォーカルの格闘がおもしろい。シングルの「The Shock Of The Lightning」はドライヴ感あふれるロックナンバー。最初はもっとミディアムテンポの曲だったらしく、レコーディングしていくうちにどんどん早くなっていったらしい。これは大正解。アルバムの中でアクセントをつける曲として見事な機能を果たしている。これがなかったら、最後まで聴くのに疲れてしまったことだろう。次の「I'm Outta Time」もそう。もろにジョン・レノンかもしれないけど、リアムの優しいヴォーカルはまたジョンとは違う趣がある。最後に「I'm Outta Time(俺にはもう時間がない)」と歌い続けるところに僕はやられてしまった。
「(Get Off Your) High Horse Lady」はノエル作だけど、なんだか昔のコーラルみたい。もっさりしたフォークロック。カモメの鳴き声の逆回転から始まる「Falling Down」は、これからのオアシスのスタンダードになるのではないかという1曲。メロディー主体ではなく、オアシスのグルーヴ面での進化が感じられる。「To Be Where There's Life」はゲムの曲。シタールをフィーチャーしているが、これはビートルズですね。「Ain't Got Nothin'」はリアムのけんか腰ヴォーカルが炸裂した1曲。正直言うと、リアムが歌っているからなんとかなっている感もある。「The Nature Of Reality」はアンディの曲。ここで言うことではないけど、アンディはもっとすごい曲書けるはずです。
ラストの「Soldier On」はひたすらリフレインしていくメロディーが、どこかもの悲しげで、これも今までのオアシスにはない曲。こんな風に終わったアルバムもこれまでないんじゃないだろうか。
ここまでくると、これまでだったら、まどろっこしいような気持ちになりそうなのだが、不思議とそういう気分にならない。むしろ、今までのオアシスとは全然違いながらも、不思議と「これぞオアシス」と思ってしまうアルバム。ここがオアシスのすごいところで、半ば強引に自分たちの土俵へ聴き手を引きずり込んでしまうような力を感じるのだ。「気に入らないやつはどっか行け」ではなくて「気に入らないと言わせねぇ」くらいの。でも、その強引とも言える確信こそがオアシスの音楽を進化させてきたのではないか。今までの自分たちのイメージから遠いアルバムを作ろうというノエルの意図は見え見えであるし、そこで賛否両論起きるのは理解できるが、このアルバムで、オアシスがこれからもロックし続けることを高らかに宣言したことを今はうれしく思うべきなのではないかと思う。
おすすめ度★★★★(10/12/08)
The Shock Of The Lightning